伝統と斬新さを併せもつ話題の朝食を食すため、高層のインフォスタワーやセルリアンタワーがそびえる渋谷・桜丘町から代官山方面へ。
鶯谷町にある隣地との境界スレスレに建てられた細長いテナントビルの地階にあるお店は朝9時の開店前から人が集まり、30分後にはすでに階段の外にまで行列を作っていました。

それが「かつお食堂」。
2022年から2年連続で『ミシュランガイド東京』の「ビブグルマン(星は付かないもののコストパフォーマンスが高く、良質な料理を提供する飲食店)」に輝いた、わずか10席のお店の主役は削りたての鰹節をたっぷりのせたご飯。
入店を待つ狭い階段にもそこはかとなく海のエッセンスを含んだ芳醇な匂いがたなびき、朝食への期待に胸がふくらみます。

行列の横の壁にはカツオ関連の写真がぎっしり。待ち時間もカツオの背景を知ることが出来る楽しい時間となった

並んでから約40分後、ようやく入店を果たし、コの字型のカウンターテーブルへ。
カウンターの中央部では「かつおちゃん」の愛称で親しまれている、ねじり鉢巻きをした女性店主が一心不乱にガリガリッシュワッと鰹節を手削りする姿が。
なんと男前…。
そう見惚れてしまうほど、鰹節と削り器に向き合う姿が凛々しく、美しく、扱うものを愛している姿勢が伝わってきます。

鰹節を削りながらもお客さんとのコミュニケーションは欠かさない「かつおちゃん」。よく通る声が響き、店内は和気藹々とした雰囲気

「かつお食道」の看板メニューは店主が注文を受けて削った鰹節をのせたご飯と鰹節の一番出汁を用いたお味噌汁。
カツオを煮熟し、乾燥させた保存食品である鰹節の味や旨みは日本人なら誰しも知るところですが、パック入りの鰹節の普及によって削りたての味わいを食す機会はめっきり少なくなったように思います。

削りたて本枯鰹節ごはんと一番出汁のおみそ汁のセット(1,100円)。わさびは別売り

よそわれたご飯の上に削ったばかりの淡いピンク色の削り節がのせられると、まるで小高い“鰹節山”。お茶碗のなかで鰹節は動くことなく、ひしと鎮座していることに驚きを隠せません。
実はお好み焼きの仕上げにふりかけられる鰹節のようにユラユラと踊る姿を想像していたのですが…

まるで日本酒の盛りこぼしのように、お盆に溢れる程の量がこんもりと盛られている

それは厚みと幅と長さのある削り節だからこそ。
カンナ屑を思わせる美しい1枚を口に含むと、じんわりと舌に染み込んでいくような旨みに瞑目。この旨み成分は主に「イノシン酸」と「脂質」で、生きているカツオにはほとんど含まれていないとか。
ちなみにたんぱく質を豊富に含むカツオは、煮熟・焙乾・カビ付けの過程を経ることで3~4倍に凝縮されるそう。カツオは鰹節になることで、よりよいものとなるのですね。

お店の鰹節ご飯ですが、最初は鰹節とカツオのふりかけがかけられたご飯だけを、次はそこに塩をふりかけて、その次は醤油をかけて。そんな味変も楽しめます。

味変のオプションのひとつ、新鮮な風味が鼻に抜ける無農薬わさび(220円)。他にも出汁ガラのツナマヨや鰹節みそなど、様々な種類のオプションがある

卵ご飯も可能ですが、鰹節の味を追求するならシンプルに白米だけがおすすめ。
もっと削り節を味わいたいなら「追い鰹」も可能です。

「鰹節は鹿児島県指宿市から。白米は八ヶ岳の無農薬のもの、塩は淡路島の海水を汲み上げて作ったものを使っています。どれも旅先で出会ったものです。1つのお碗のなかで旅をしているようですね」と店主は話します。

かつお腹皮唐揚げ(660円)。揚げたてのカツオに甘じょっぱいタレが絡み、得も言われぬ美味しさ

日本の古き良き食文化である鰹節ご飯に興味をもつ人は日本人だけでなく、この日はインド人女性や欧米系の男性グループも来店していました。

店主は時折、削る手を止め、削り器の側面をカチカチと叩き、刃を調整。
削る部分を巧みに変えながら削っていくと、鰹節はいつのまにか小魚のようなかたちに。
何度も丹精こめて削ったであろう鰹節の表面は、鈍い輝きを放つガーネット(柘榴石)のよう。

素早い手さばきで削られる鰹節。削り器にも種類があるようで、カツオに合わせてこまめに交換されていた

最後に鰹節の塊を手にしたのはいつのことだろう。
鰹節は袋に入っているものと思うようになって、どのくらい経つだろう。

そんなノスタルジックな想いにひたった鰹節ご飯でした。
お店を後にした、女性客の「自分でも削りたくなった」という言葉に耳をそばだてながら、日本古来からの伝統食、鰹節の広がりを願いました。

なお、営業日によっては鰹節ご飯がおにぎりに変更されます。
お店のインスタグラムをチェックしてお出かけください。

INFORMATION

かつお食堂
東京都渋谷区鶯谷町7−12 GranDuo渋谷 B1
TEL 03-6877-5324
https://www.instagram.com/katsuoshokudo/?hl=ja