人はなぜ川や海などの水辺に惹かれるのでしょう。
水は流動的で、常に動きがあるもの。日本には古くから「水に流す」という言葉もあります。愚痴を誰かに話すことで心から流す「井戸端会議」は洗い清める水を共有する井戸の近くだったからこそ生まれた言葉なのかもしれません。

また、水辺で散歩やランニングをすることは新鮮な空気を体内に取り込め、体力や気力の回復が期待できます。水辺は人間の活力のソースの1つといえるでしょう。

東京・城南地区で水辺のある街の代表格といえば、多摩川が流れる二子玉川。
かつてこの地は江戸時代に遡ると、将軍家に献上されたほど鮎漁が盛んで、川沿いには鮎料理を提供する料亭や旅館などが並んでいたそうです。

一方、川の反対側は国分寺崖線上にある上野毛の緑豊かな丘陵地。
埼玉県秩父市と山梨県甲州市の県境にある笠取山から流れ出す多摩川と丘陵地に挟まれた一帯は2000年以降、大規模な再開発事業が行われ、豊かな自然と親和性が感じられるスポットに生まれ変わりました。

今回は涼を誘う二子玉川の水辺スポットを散策しました。

東急「二子玉川」駅からライズショッピングモールを抜けると、多摩川の流れに沿って水辺が楽しめるスポットが点在しています。

「帰真園(きしんえん)」は川べりに整備された「二子玉川公園」内にある日本庭園。
2013年に開園した庭園は名前だけ聞くと敷居の高そうな印象を受けますが、園内に足を踏み入れると、たっぷりとした緑と水が織りなす自然の景観に安らぎを覚えます。

造園家・進士五十八監修のもと、高崎康隆、戸田芳樹風景計画が手がけた「帰真園」

この帰真園という名前は「都市の中に置いて自然に環る(Return of Nature)」というコンセプトに基づき、世田谷や二子玉川に見られる自然がモチーフとなっています。
例えば、タワーマンションにほど近い入り口付近の高台の石組は多摩川の源流、笠取山や鳩ノ巣渓谷を、庭園中央部の池は多摩川を表現といった具合に。

池の前に建つ和風建築は「旧清水邸書院」。
明治時代末期に建てられたこの建造物は大正時代に世田谷区・瀬田の清水家に移築。昭和末期に取り壊されるはずでしたが、世田谷区が建築部材を保管していたことから帰真園の開園に合わせて2013年に復元。明治から令和まで、長い歴史を刻んでいます。

池泉回遊式庭園の中央に建つ世田谷区登録有形文化財の和風建築「旧清水家住宅書院」

建物の軒先に腰かけ、タワーマンションが逆さまに映り込む池をぼんやり見つめていると、いつのまにか慌ただしい日常が忘却の彼方へ…。

緑のある水辺は地域の癒しの空間。タワーマンションが池に映り込む様子も麗しい

帰真園から少し歩いた高台にあるのが「スターバックス 二子玉川公園店」。
このお店はスタバの中でも地域の象徴となって文化を発信する役目を担う、特別な店舗(スターバックス・リージョナル・ランドマーク・ストア)。多摩川や上野毛の丘陵地などの自然が楽しめるよう設計されています。ちなみにこの特別なスタバは都内では新宿御苑内の店舗とここだけ。
高台から多摩川の流れに癒されながら休息してはいかがでしょう。

二子玉川の景観を活かしたスタバから川べりへ降りていくと、隠れ家風のユニークなフレンチレストラン「TOKIO フレンチ ルナティック」があります。
フランス料理を気軽に楽しめるようセルフサービスを導入し、コストを削減することで料理をリーズナブルに提供するこのお店。多摩川を臨むなら、2階のテラス席が特等席です。

前述しましたが、多摩川はかつて鮎漁で栄えた土地柄。
その鮎を余すことなく用いたラーメンが楽しめるのが、玉川高島屋の裏側に伸びる昔風情の二子玉川商店街にある「鮎ラーメン 二子玉川本店」。大きな「鮎」の文字が書かれた暖簾が目印です。暖簾の内側は10席足らずのカウンター席のみで、ランチタイムにはたいてい行列が。

夏場のランチは「鮎涼ラーメン」(1,300円)のみ。
岐阜県産の鮎の一夜干しが凹凸のある麺の上にのった冷やしラーメンは竹筒に入ったジュレ状の鮎の煮こごりタレでいただきます。干すことで旨みが凝縮された鮎は骨抜きで食べやすく、そのままでもつけダレにつけても。鮎笹飯にかかっているふりかけの材料は鮎だけだそう。

ダシから具材まで鮎にこだわった、夏季限定の「鮎涼ラーメン」

この鮎ラーメンは二子玉川の伝統的な麺料理というわけではありませんが、鮎にこだわったお店の姿勢は鮎漁が盛んだった頃の多摩川へのオマージュを感じさせます。

食後はライズショッピングモール方面に戻り、楽天クリムゾンハウス前に広がる緑豊かなルーフガーデンへ。

多摩川に生息する生きものが見られるビオトープや原っぱ広場の奥にある「青空デッキ」からは多摩川と二子玉川の街が一望できます。

二子玉川の水辺散策はいかがでしたか。
水遊びスポットとして子どもたちに大人気の兵庫島周辺は大規模な堤防工事が2024年まで続いています。整備された後はまた、この街の水辺の魅力がアップすることでしょう。楽しみですね。

information

帰真園
東京都世田谷区玉川1丁目16-1
03-3700-2735(二子玉川公園ビジターセンター)
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/012/015/001/010/d00124898.html

鮎ラーメン 二子玉川本店
東京都世田谷区玉川3丁目15-12 玉川3丁目マンション 102号
https://ayuramen.jp