旧暦の9月13日は「十三夜(じゅうさんや)」。
ちょうど十五夜の約1ヶ月後に訪れ、この頃は栗や豆が収穫期に当たることから「栗名月」や「豆名月」とも呼ばれます。

十三夜に月見団子の代わりにお供えされることもあるおはぎは小豆の存在感ある庶民派の和菓子。その語源は「萩」の花にあり、細やかな小豆粒が萩の咲き乱れる様子に似ていることから「萩の餅」と呼ばれ、やがて「おはぎ」に。

さて、おはぎといえばこしあん、つぶあん、大小の違いはあるものの俵形が定番。
しかし、世田谷区桜新町のおはぎ専門店「タケノとおはぎ」を訪れると、きっとその固定概念は大きく塗り替えられることでしょう。

2016年にオープンして以来、一躍桜新町の人気店となったお店は正午の開店前から、おはぎを求める人が並んでいます。この日、開店10分前ぐらいに行ったところ、すでに数組の姿が。その後もどんどん並ぶ人が続き、見渡す限りほぼ女性客で占められていました。

店名は、おはぎ作りが得意だったオーナーのお祖母様の名前「タケノ」さんに由来

コロナ禍ということもあり、現在入店できるのは2組ずつ。
アートギャラリーにも思えるこぢんまりした店内では吊り下げられたライトの下におはぎの入った7つの木箱が秩序よく並んでいます。その主役は木箱というステージに上がったニューウェーブなおはぎたち。おや、庶民的なあのおはぎはどこにいった!?と、「スター」なおはぎの姿に一瞬戸惑うものの、心トキメいてしまいます。それは目立たなかった同級生があか抜け、いつのまにか「推し」といわれる存在になっていた…今風にいえばそんな感覚に似ているかもしれません。

お店では常時7種類のおはぎが並びます。定番の「つぶあん」と「こしあん」をはじめ、その季節に入手できる素材が使われたおはぎはどれも小ぶりで大人の手のひらに2個ぐらい乗るサイズ。お店はテイクアウトのみで、売り切れ次第で閉店となります。

こちらはその日に並んだ全てのおはぎを入れた、曲げわっぱ。
このプレゼンテーションも7種が1つの完成した商品となっています。

曲げわっぱは3個入り・5個入り・7個入りの3つのサイズから選べる

ビタミンB群、亜鉛や鉄、マグネシウム、サポニン、カリウムなどのミネラル、食物繊維などが含まれる小豆はタンパク質が多く、低脂質という点が健康や美容を気遣う人に支持されています。お店ではおはぎの肝であるあんこに風味豊かな北海道の「大納言小豆」を使用。基本的に前日炊いたものを1日なじませて用いるそうです。

定番のつぶあんとこしあんには白いもち米を、白あんには黒米もちを使用。安心して口に入れられる素材を厳選し、添加物は不使用という姿勢を貫いています。フォトジェニックでありながら、人にやさしい中身。毎日、作れる量だけを作るというポリシー。お店の前に行列が出来る理由がわかるような気がします。

「ひとひら」(350円、上)は花びらを1枚1枚重ねたエレガントな一品。
夏場に旬を迎える桃のピューレを混ぜ合わせた、自然の色味を生かしたあんこは桃の甘やかな香りが封じ込められ、鼻先をうっとりとくすぐります。花びらの土台に付けられた甘酸っぱいドライのサンザシがアクセントに。

「ナッツ」(310円、右)に使われているのはオーガニックのアーモンド、くるみ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ。もち米とのバランスを考えられ、白あんを覆うナッツ類の過不足ないボリュームがとても上品。

まぶされたココナッツファインがスノーボールを思わせる「ココナッツとレモンピール」(280円、上)はレモンピールが練りこまれた白あんが爽やか。東南アジアの街角で売られている伝統菓子にも似た、トロピカルな甘みが楽しめます。

「ごまとあんず」(280円、左)はその見た目から練りごまが使われていることは容易に連想できるものの、まさか酸味のあるあんずが中に隠されているとは! 「ひとひら」同様、おはぎの概念を覆すようなお花のデザインが斬新。

お店は桜新町と学芸大学で展開。ニューウェーブなおはぎはきっと庶民が親しんできた「おはぎ界」の裾野をこれからも広げていくことでしょう。

器選びも楽しくなるフォトジェニックなおはぎは日によってメニューが変わる

2022年の十三夜は10月8日(土)。
また、十三夜は「名月」であり、13という数字にちなみ、10月13日は「豆の日」に制定されています。

今年の十三夜にはおはぎの甘みに癒されながらお月見なんていかがでしょうか。

information

タケノとおはぎ
東京都世田谷区桜新町1丁目21-11
TEL 03-6413-1227
https://www.takenotoohagi.com