「初めて来ましたか?」
にんにくがいくつも吊るされているお店のテーブルに座り、メニューを広げようとした瞬間、絶妙な間合いでお店の方から声をかけられるのが、イタリアンをベースにしたにんにく料理店「Garlic × Garlic(ガーリックガーリック) 渋谷店」。
初めてと答えると、おすすめのメニューや食べ方を丁寧にご指南いただけ、ドキドキしながら料理を選んでいきます。
そのドキドキの正体はにんにくのボリューム。事前情報によると、このお店はにんにく料理を冠しているだけあり、1品に使われている量が容赦ないとのこと。よって、その日の予定をにんにく(を食した後のにおい)ありきで考えなければならないほど、訪れた日は1年のうちで最もにんにくを摂取する日になるだろうと、ある意味、腹をくくってお店のテーブルに座ったというわけです。
和洋中の料理に使われるにんにくはしょうがやねぎ、にらとともに「クセ強野菜」の筆頭格。
とはいえ、インパクトのあるにおいや刺激が勝りすぎて、その生態についてはあまり知られていないのではないでしょうか。
にんにくはヒガンバナ科(昔はユリ科)の多年草、収穫時期は産地によりますが、6〜7月にかけて。八百屋やスーパーの青果売り場に並ぶのは乾燥させたものですが、産地では採れたての生にんにくも食べられるそうです。
にんにくの旬にだけ楽しめる、お店のレアな料理が「生にんにくの丸揚げ」(1,200円)。
素揚げしたアツアツのにんにくの皮をはがし、塩と香草でいただくシンプルな料理です。
きっと、一口食べるだけで体中の毛穴が全開になり、玉のような汗が滝のごとくほとばしる…と心して口にしたところ、芋のようなこっくりとした食感で、ほのかな甘みが感じられるやさしい味わい。あれ!?いつものガツンとくる、クセ強な風味はどこへやら。皮をむくと美肌!と叫びたくなるほどのふっくら白肌だし、にんにくの別の顔を知ることになります。
Garlic × Garlicで用いるにんにくは全て青森県南端に位置する田子町(たっこまち)産。主には寒冷種の「福地ホワイト種」が栽培されています。青森県は日本一のにんにく生産地で、なかでも田子のにんにくは一片の粒が大きく、旨みとコクがあると評判だとか。生にんにくの丸揚げは最大限に田子にんにくの個性を主張しているといってよいでしょう。
これを目当てに訪れる人が多いと断言できるのが「ガーリック×ガーリックトースト」(540円)。
フランスパンの上に小高い山さながらに盛られている、オリーブオイルでソテーされたみじん切りのにんにくのボリュームに釘付けになり、「うわー」という歓声とスマホのシャッター音が聞こえてくる逸品がこちら。
にんにくの量にかけては他の追随を許さないというお店の気迫が伝わってくる、このガーリックトースト。これを食べたら夏バテしない!という、にんにく=精がつくを体現化しているせいか、見渡すと全てのテーブルで食べられていました。
さて、お店のメニューを開くと「にんにくバロメーター」がイラストで表示されています。
前述したにんにくの素揚げとガーリックトーストはにんにく度が一番高い「5」ですが、サラダは「1」もしくは「2」と少なめ。
にんにく摂取のはし休めとして選んだのは「やわらかベーコンのシーザーサラダ」(1,210円)。肉厚のベーコンと細切りのチーズ、にんにくチップが葉物野菜を引き立て、ご馳走サラダといいたくなるほど、彩りも味も豊かです。
にんにくと卵黄とタコ。
これは「組み合わせの妙」、それとも「進化系」というべきでしょうか。
そんな異色メニューが「にんにく卵黄ソース・タコのカルボナーラ」(1,550円)。
「これぞ、にんにく!」と唸らせる、にんにくの旨みが凝縮されたクリーミーなソースにタコとパスタが絶妙に絡み、口に運んだ瞬間から笑顔が生まれます。
日本ではカルボナーラに生クリームを使うお店が多いですが、本場イタリアでは卵を味わうためのパスタなので、生クリームは使いません。このお店では本場同様、卵黄とにんにくを主原料にしたソースを採用。
意外にも、この日いただいた料理のなかで一番、パンチの効いたにんにくの風味が楽しめたのがこのカルボナーラでした。
食欲をそそるローズマリーとにんにくの香りをたっぷりまとっているのが「大山鶏のガーリックソテー ハーブの香り」(1,980円)。
ナイフを入れるとパリッと皮がはがれ、弾力とやわらかさをあわせもつお肉を切り分けている時から期待を裏切ることなく、胃袋を幸せに満たしてくれる味わい。そのままでも充分よいお味ですが、ガーリックペーストを付けていただくと、ぐっと深みが増します。
「外国産のにんにくは独特のえぐみや辛味があり、たくさん使用するとピリピリと刺激が強すぎます。一方、田子のにんにくはホクホクとした食感で刺激も少なく、旨みと辛みのバランスが最高。初めて食べた時から、うちの料理にはこのにんにくしかない、と思いました」。
田子産のにんにくに惚れ込んだオーナーが渋谷に開店したこのお店は今年7月で、ちょうど12周年を迎えたばかり。お店の中央には常連客の芸能人夫婦から贈られたという大きな蘭の花が飾られ、ウッディなテーブルが並ぶお店に華やかなムードを添えていました。
お店のにんにくへのこだわりはアイスクリームにもうかがえます。
バニラとピスタチオのアイスクリーム(各520円)の上にのっかっているのは、お店オリジナルのにんにくジャム。
「ピスタチオのアイスクリームがおすすめです。にんにくジャムと一緒に召し上がってみてください。どうですか、栗のような味でしょう?」
この世に、にんにくのジャムがあることに目を丸くしましたが、りんごや梨を思わせるそのフルーティーな甘みにも驚き。このジャムはにんにく、砂糖、りんご果汁をじっくり煮込んで作られ、お店で購入することもできます。
これまでにんにくには演劇の世界でいわれる「バイプレーヤー」という印象を持っていました。
パスタや肉料理には風味を添え、ラーメンにはパンチを効かせ、夏になるとスタミナ食材として脚光を浴びて…そう、主役の脇をしっかり固める名脇役です。
それが、Garlic × Garlicの料理をいただくと、にんにくはバイプレーヤーでありながらも堂々と主役を演じるスターな存在感に。一度見たら観客の心に居座り続ける、その人にしか醸せない味のある役者を思わせます。日本では名優・小日向文世さんみたいな感じでしょうか。
このお店の料理はにんにくをたっぷり使っているとはいえ、イタリアンがベースになっているので、普段から親しんでいるメニューもたくさん。ドリンク類も田子町で作られている「タッコーラ」や自家製にんにく漬けリンゴ酢を使った「ニンニクドリンク」、アルコールも黒にんにくと赤ワインをブレンドした「クロシュ」など、他では飲めない一風変わったドリンクもラインアップ。
一度味わうと、舌と心を虜にする魔性の田子にんにく。
夏を元気に乗りきるためにも、お店の香りと旨みがたまらない、にんにく料理を楽しんではいかがでしょうか。
INFORMATION
Garlic × Garlic 渋谷店
東京都渋谷区松濤1-26-2 1F
03-5478-2029
http://garlicxgarlic.com