漣(さざなみ)のような心地よいざわめき。

それが武蔵小山の代名詞であるアーケード街「Palm(パルム)」に足を踏み入れた途端に感じたファーストインプレッションでした。

ミラノのガレリアを思わせるアーケードの丸天井。やわらかな陽光が射し込む

パルムは1956(昭和31)年にオープンした日本初の大型アーケード街。
完成当時は全長約470m。その後も延長拡大し続け、現在は2棟のタワーマンションがそびえる武蔵小山駅前から中原街道まで全長約800m。今もなお東京で最も長いアーケード街として、全国に名の通った存在感を誇ります。

1、2、3、4、G街区に区分される通りにずらりと連なるのは約250の店舗。
さまざまな業態の飲食をはじめ、青果物、雑貨、服飾、家電、学生服、スーパーなどバラエティ豊かなお店が立ち並び、さらには雨の日も傘をさす事なくショッピングを楽しめるのがパルムの魅力。初めてこのアーケード街を訪れると、お店の充実ぶりに感嘆の声を漏らすはずです。「うちの近所にもこんな商店街があったら!」と。

お店の軒先には商店街のサービスを掲げた看板が見える

昼食時、3街区にあるお店の開店を待つ多くの人の姿が目に飛び込んできました。
「天ぷら まきの」です。

こちらは丸亀製麺の新業態で、関東圏の出店はここ武蔵小山のみ。
注文を受けて目の前で揚げる天ぷらがリーズナブルな価格で味わえることから人気に火がつきました。

お店で楽しめるのは旬の魚介類や肉、野菜、玉子1個を丸々揚げた天ぷら定食の数々。
どれもボリュームがありますが、薄づきの衣がサクサクっと軽いので、見た目に反して意外とあっさり食せます。ごはんのお供も充実し、席には甘酸っぱい大根と大ぶりな塩辛の瓶が置かれ、おかわり自由(太っ腹!)。

ランチはいつも満員。活気ある「まきの」では揚げたての天ぷらが1品ずつ目の前に並ぶ

学生服とジェラート屋さん!?
この異色すぎる組み合わせにひかれ、店頭に近づいてみました。
3街区にある創業100年以上の老舗学生服専門店「タケヤ」の店頭でジェラートケースを構えるのは「タケヤ・デザートイン」です。

創業36年を迎えた「タケヤデザートイン」。自家製ヨーグルトのジェラートが一番人気

ここは店主のみどりさんがイタリア製の機械を使ってジェラートを作り、販売するお店。
「自分で材料を仕入れ、手作りしているからこのお値段にできるの。だって、皆に喜んでほしいでしょ?」というジェラートはシングル(税込400円)・ダブル(税込500円)・トリプル(税込600円)と財布にやさしいお値段。ダブルを頼むと「ちょっとこれも食べてみて」と、別の種類をスプーンですくって味見させてもらえるのも嬉しいサービス。

タケヤの前でジェラートを楽しんでいると、ちょうど通りかかった犬連れのご婦人や荷物を運ぶ宅急便会社の人も交えて会話が始まる…といった具合に、ご近所付き合いができる商店街の魅力がぎゅっと詰め込まれている場面に遭遇できました。

パルムでは全国展開をしているお店も多く、個人商店が幅を利かせているというわけでもないのに、この「地元感」やあたたかみのある空気を感じるのはなぜなのでしょう。

その秘密を解くため、訪れたのは「パルム会館」2階にある「武蔵小山商店街振興組合」。
事務所に入って驚いたのは、組合のお仕事をされている人の数。なんと11人の方々が商店街のお仕事に従事されているそうです。

武蔵小山商店街振興組合のある「パルム会館」。商店街に関する情報を得るならここへ

武蔵小山商店街振興組合事務局事務長の尾村優太さんは「個人店、チェーン店に関係なく、お店の人同士が親しくされています。同業種の人たちの間でもよく話をされているようで、ディスプレイもお互いに扱っている商品がかぶらないように配慮している、という話も聞きますね。青果物を扱うお店でも近所の魚屋にその日入荷した魚を見て売りものを考えるなど、近くのお店との関係を大切にしていらっしゃいます」と話します。

武蔵小山商店街振興組合の尾村優太さん。かつては来街記念のトレカ「商店街カード」の企画も行った

商店街独自のクレジットカードや電子マネー兼ポイントカードの発行、公式アプリをリリースする他、都心部の商店街では珍しく収容台数132台の大型駐車場も完備するうえ、100台が駐輪可能な駐輪場(最初の3時間は無料)も2022年に誕生したばかり。パルムはお店にお客さんを呼び込むアイデアが満載なのです。

放置自転車の問題もあり、駐車場の一部を整備して駐輪場に。安価で利用者から評判が良い

また、国内外から観光に訪れる人も多いパルムは年間を通じてさまざまなイベントも開催され「いつも何かやっている、活気ある商店街」として全国区の知名度を誇り、全国から日本のリーディング商店街を視察に訪れる人たちも後を絶ちません。

一方、見に来られる側の立場でもあるパルムの方も視察に行くことがあるそう。
「2019年にはアーケードの形状を調査するため、鹿児島、熊本、福岡の30の商店街を見に行ってきました。他の商店街ではどのようにアーケードや建物を維持しているのか、勉強する機会も多いですね」と尾村さん。

近年、力を入れているのが商店街のオルジナル商品。
武蔵小山商店街振興組合が入居する「パルム会館」1階のサービスセンターでは千葉県山武市の守屋酒造とコラボしたオリジナル日本酒「波留夢(ぱるむ)」が販売されています。

「パルムに行くと何か面白いことが待っている、と期待してもらえる商店街でありたいですね。オルジナル日本酒の前には『サクマドロップ』とコラボしたこともあります。パルム仕様にこだわり、『アサイー&シャルドネ』という変わったフレーバーを作ってもらいました(笑)。『波留夢』はパルムのコンセプトに共感してくださった守屋酒造さんとコラボしたものです。地域のすばらしい商品のPRに加え、パルムブランドも育てていきたいですね。ちなみに日本酒を販売するにあたり、酒類販売免許も取得しました」。

この波留夢をパルムで楽しむなら、G街区の「浜田屋」で。
創業90年を超える老舗で、うなぎや天ぷらとともに日本酒をいただくのもよいでしょう。

夕暮れが近づくと訪れる人が増し、アーケード街にはひときわ心地のよいざわめきが。

4街区、商店街の終着地付近で一段とにぎわっているのが焼き鳥「鳥勇(とりゆう)」。
1926(昭和元)年創業の老舗で、軒先には焼き鳥串を求める老若男女が連なっています。近くを通ると鳥を焼く香ばしい匂いが鼻先をくすぐり、ついつい吸い寄せられそうになりました。

information

武蔵小山商店街パルム
東京都品川区小山3-23-5
TEL 03-3786-1001
http://www.musashikoyama-palm.com/