世田谷に暮らす人たちにとって、冬の代表的な行事として外せないのが「世田谷ボロ市」。
開催は毎年12月(15日・16日)と1月(15日・16日)の年4回。1日に訪れる人の数はおよそ20万人。「世田谷代官屋敷」のある「ボロ市通り」が多くの人でごった返す、城南地区最大にして歴史あるフリーマーケットです。

普段は静かなボロ市通りも期間中は活気に満ち溢れる。世田谷線では何とボロ市用の臨時ダイヤが組まれる

コロナ禍の影響で2020年以降、中止されていましたが、2022年に復活!
長く、世田谷ボロ市に親しんできた人たちはこの朗報に胸を熱くしたことでしょう。

2022年12月15日。
10時に東急世田谷線「世田谷」駅に降り、ボロ市通りに続く路上を眺めると、すでに多くの人、人、人! なかには外国人旅行客と思しき集団も。

ズラリと並ぶ露店の軒先で目当てのものを探す人たち。3年前と異なるのは皆、マスクを付けていることだけで、もうすぐ日常が戻りつつあるのだな…ということを予感させる光景が広がっていました。

これぞボロ市!掘り出し物が見つかるかも?迷っているといつの間にかなくなっている…なんて事も

ボロ市の発祥は古く、なんと安土桃山時代。
当時関東地方を支配していた小田原城主北条氏政が天正6年(1578年)に世田谷新宿(現・世田谷1丁目)で「楽市」(自由な行商・販売)を開いたことに端を発します。

北条氏が豊臣秀吉に滅ぼされて以降、楽市は自然消滅しましたが、市の文化は継承されていきました。
明治以降は農具などを中心とした「歳の市」が、現在の12月15日・16日、1月15日・16日に開かれるようになったそうです。明治20年代になると古着やボロ布の露店が増えたことから「ボロ市」と呼ばれるように。第二次世界大戦後から正式名称になり、浸透していきました。

「何でもあり」といわれるボロ市ですが、通りを歩くと多くのモノと人が眼に飛び込んできます。
「ザ・ボロ市」といわんばかりの山のように積まれた着物やヴィンテージからユニクロまでの古着、神棚、国内外の骨董品、江戸時代の教科書、まな板、富山の薬売りを彷彿させる薬箱、バイオリンやギターなどの楽器、お正月の注連飾り、はたまたパクチーの束や種、排水経路用の部品まで数え(覚え)きれないほどさまざま。

この日の出店数は約700店。
1つのお店に人が集まると、どんどん人が集まってくる現象には人間心理(バンドワゴン効果)が働くのでしょう、通りに人だかりができると歩行が滞ってしまうこともしばしば。皆、前進したいのは山々でも「ボロ市だったらこれもアリね」と朗らか。学校を終えて遊びにやって来た、地元の男子小学生たちもかん高い声で「はぐれそうだからさ、皆で手を繋いで歩こうぜ!」。

冬晴れの青空の下で、世田谷区長やせたがやボロ市保存会の会長がくす玉開きを行った。下で見守る観衆からわっと歓声が上がり、3年ぶりのボロ市が本格的にスタート

市が立ったら「食」が外せません。
通りにはバラエティ豊かな食べ物の露店が点在。通りに面した飲食店ではボロ市の期間だけのメニューを設けたり、あんず棒やチョコバナナ、焼き団子のようなお祭りフードまでズラリ勢揃い!

ほかほかと湯気の立つ八重山そば(800円)は沖縄の郷土料理店「ゆいゆい」のボロ市限定メニュー。歩き通しで冷えた身体に温かさが染み渡る
炭火で焼かれる大ぶりな焼き団子(1本500円)も人気を集めていた

ボロ市の名物といえば「代官餅」。辛み餅を入手することを目的に販売会場に行ってみましたが、長蛇の列で1時間以上待つとのこと…。代官餅のスタッフによると「9時からの販売ですが、すでに7時30分には30人ぐらい並んでいました。代官餅は通年3種(あんこ、きなこ、辛み)を販売しますが、今年はあんもちだけの販売です。1種だけだからこの行列で済みますが、3種販売する年はものすごい行列ですよ」。

11時頃に到着したが、既に折り返しが何か所もある大行列となっていた

代官餅に若干未練を残しつつ訪れたのは「世田谷代官屋敷」。
この一帯は彦根藩(藩庁は滋賀県彦根市の彦根城)の世田谷領であり、その代官を務めた大場家の私邸であり役宅だったのがこのお屋敷。面積57.84坪(191.2平米)で寄棟造り、茅葺き、玄関は北面に配されています。屋敷を囲むように植えられた樹木にはそれぞれ木の名前と特徴が書かれたプレートが付けられ、この邸宅が大切に守られていることを感じさせます。
特筆すべきは、さっきまでのボロ市の喧騒を忘れさせるほど静謐な空気に満ちていること。通りの雑踏に疲れたらぜひ、ここで気分を整えてはいかがでしょう。

ボロ市通りに面した場所で佇む代官屋敷。敷地内に入ると、まるで異世界へ足を踏み入れたように空気が変わる

さて、長年のボロ市ファンにとっては夕暮れから夜にかけての光景こそがボロ市の醍醐味と感じる人が少なくありません。

逢魔時(おうまがとき)を迎えると、通りに小豆色の闇が訪れ、連なる露店にポツポツと灯りがともされはじめます。昼にはない、ピリッとした冷たい空気が頰を撫でつけはじめる頃、骨董が並ぶ露店で行われていたのは巨大な天狗面を巡ってのディスカウント合戦。(ちなみにお代は3万円)「2万5千円ではどうでしょう?」「うーん、3年ぶりのボロ市だし、そろそろ閉めるしな。よし、いいよっ!」という威勢のよいやり取りに市見物の面白さを感じ、しばらく歩いて湯気がたちのぼるおでんを肴にお酒を楽しむ大人たちの輪に飛び込む…。そんな遊び方がここにあります。

2023年1月15・16日も「世田谷ボロ市」が開催されます。
ぜひ、世田谷の心地よいざわめきに包まれる冬の市を体験してみませんか。

INFORMATION

世田谷ボロ市
2023年度は1月15日・16日 2日間とも午前9時~午後6時
https://www.city.setagaya.lg.jp/setagaya/001/003/d00125000.html