今では年中買えるサツマイモは秋の季語であり、実りの秋を代表する収穫物。
中南米原産ですが、日本には17世紀前半に九州に伝わり、西日本では元禄年間(1688ー1703)に栽培が始まり、関東圏では「甘藷(かんしょ)先生」こと儒学者の青木昆陽が時の将軍、徳川吉宗の命を受け、1734年に甘藷を試作したことから広まりました。

デンプンを好む日本人に受け入れられてきたサツマイモは古くから「栄養価の高い間食」と重宝され、近年ではさまざまな品種が市場に出回っています。またここのところ、サツマイモを主役に据えたお菓子の台頭には目を見張るものがあり、庶民の間食からいつのまにか「スイーツ界の重鎮」の風格さえ漂わせるほどに。

さて、秋の実りを自らの手で収穫するべく、やって来たのは世田谷区喜多見にある「清水農園」。次大夫堀公園(じだゆうぼりこうえん)に隣接し、野川沿いにある2反(約2,000平方メートル、約600坪)の農園では約6000株のサツマイモ(品種:紅あずま)が栽培されています。

取材時は11月上旬だったが、抜けるような秋晴れも相まって軽装でも汗ばむサツマイモ掘り体験となった

世田谷区ではサツマイモの収穫期になるとイモ掘り体験ができる「ふれあい農園」を実施。ここ清水農園には毎日数組の収穫体験者が訪れるほか、毎年、2000人以上の幼稚園、保育所、小学校の子どもたちが訪れ、サツマイモ掘りを体験するそう。この日も100人以上の保育園・幼稚園児たちの歓声に包まれていました。

私たちに与えられたサツマイモの株数は6株。「土を平らにするよう掘っていってね」と農園スタッフの助言に従い、最初は手袋をつけた手でおそるおそる土にふれてみました。しかし、サツマイモと思しき物体の片鱗を見つけるや皆、「モグラの手」に。以降はトレジャーハンティングのごとく、無我夢中で掘って行ったのはいうまでもありません。

サツマイモを見つけたと思ったら石ころだった事も…。その分、大物を掘り当てた時の嬉しさはひとしお

表面の土は乾燥してモッサリしていますが、サツマイモが眠る土のなかは粘り気があります。マスク越しでも水分を吸った深々とした土の匂いがたっぷり!掘りながら土遊びが人生の全てだった子どもの頃を思い出して、ちょっぴりキュンとなったり、土のなかを棲家とするまるまると太ったマルムシやカブトムシの幼虫に出くわすと驚きつつも、自然と生きものがちゃんと循環していることに安心したり。

清水農園では1株210円でサツマイモ掘り体験が出来る。取れ高が少ない時は追加で貰える場合も

モグラの手となり、収穫したサツマイモは大中小あわせて44コ。
1株に細くて小さなものが2〜3コ付いているものもあれば、ふくよかなものが4〜5コの株も。
清水農園のお母さん曰く「お店で売っているサツマイモを見慣れていると、細いサツマイモに抵抗があるかもしれません。けれど、どれも同じ土のなかで育っているものなのよね。サツマイモは暑さに弱い作物だから、気温が24℃以上の日が続くとあまり育たないの。今年は暑かったから細くて小さなものが多いかもしれないね。そんなサツマイモは空の牛乳パックに立てて入れ、電子レンジで加熱してごらん。カットしてお味噌汁の具や炊いたご飯に混ぜ合わせるといいよ」。

エネルギー溢れる清水農園のお母さん。レシピや農園の事などを気さくに教えてくださった

収穫を終えた畑ではところどころに、グルっと巻かれたサツマイモのツルが置かれていました。このツル、何に用いるかご存じでしょうか。実は近隣の子どもたちがクリスマスリースの材料に使うそうです。廃棄するのではなく、こうして二次使用する取り組みは素敵ですよね。

さて、収穫したサツマイモを使って編集部で焼き芋とスムージーを作ってみました。

取れたてで土だらけだったサツマイモも、洗うと目の覚めるような鮮やかな色に

焼き芋は本記事の企画・撮影を担当したM嬢が試作の末、電子レンジで簡単に出来るレシピを教えてくれました。
作り方はよく洗ったサツマイモを水に濡らしたキッチンペーパーで巻き、600Wの電子レンジで1分、解凍モードで8分加熱するだけ。ホクホクの美味しい焼き芋が出来上がります。

チンする際は様子を見ながら。竹串などで刺してみてスッと串が通ったら完成

そして、スムージーはサツマイモを皮付きのままイチョウ切りもしくはサイコロ切りにし、電子レンジでやわらかくなるまで加熱(時間は量によって異なるので、様子を見ながら加熱していきます)。やわらかくなったサツマイモはミキサーに移し、牛乳を加えてトロトロになるまで攪拌します。ミキサーにかけている途中、蜂蜜を加えながら好みの味に調整していきます。

出来立てのスムージーを一口。サツマイモ掘りという肉体作業の後だったこともあり、からだのすみずみをいたわってくれるような甘みが体の芯をゆるめてくれるよう。目を輝かせて「カフェでもやる?」とやや本気で言ってしまうほど、上出来なスムージーでした。ぜひ、皆さんも作ってみてください。

まろやかなスムージーはガラムマサラなどのスパイスやホイップクリームともよく合う

さて、1805年に著された『包丁里山海見立相撲』(江戸時代の食材ランキング表)の番付けで、瀬戸のサツマイモは大坂のスッポンや山城のウナギと並び、最高ランクの「頭取」に輝いています。日本人の味覚の感性は江戸時代でも令和の時代も変わらないようです。つまりはサツマイモがこの世にある限り、私たちの胃袋はつかまれ続けるのかも!?

世田谷区では毎年、いくつかの農園でサツマイモ掘りの体験ができるので、自らの手で掘り当ててはいかがでしょう。

INFORMATION

清水農園
世田谷区喜多見5-5
申し込みについては世田谷区のサイトをご覧ください。
※令和4年度の芋掘り体験は終了
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/shigoto/008/002/d00120498.html