等々力渓谷につながる谷沢川のほとり。世田谷区中町の閑静な住宅街の一角に突如として現れる農園が「世田谷いちご熟(じゅく)」です。その名前から、完熟したいちごの甘酸っぱい風味を連想する方もいらっしゃるのでは?城南地区では希少ないちご狩りスポットを訪ねてみました。

「両親は花を栽培していましたが、自分が何かを育てるならいちごがいいなと思っていました。それもいちご狩りを楽しめるような農園を思い描いていましたね」
そう語るのは世田谷いちご熟の農園主、廣田隆一さん。

「世田谷いちご熟」農園主の廣田隆一さん。農園で見られる、いちごのキャラクターや大きな抽象画も廣田さんの作品。サイトでは自作の音楽も聴ける

廣田さんが夢をかなえたのは2013年。
ご両親の畑に隣接する約7アールの畑に、ご自身で整備したいちご農園を誕生させました。

3棟のビニールハウスで栽培されているいちごは「あきひめ」「紅ほっぺ」「よつぼし」の3種。この農園では土耕栽培ではなく、高設(こうせつ)栽培を採用しています。高設栽培とは地面から約1mほど高い位置で青果物を植え、育てる方法。農作業をする時にはかがむ必要がほとんどないので体の負担が軽減されるし、いちご狩りに訪れたお客さんも立ったままでいちご狩りが楽しめます。

いちごを摘む時はスナップをきかせてヘタから取る。プチっと小気味よい音がする

この日は「あきひめ」と「よつぼし」のハウスが解放されていました。
摘んだいちごは30分食べ放題。受付で渡された容器を持ち、まずはよつぼしのハウスへ。戸を開けてなかに入ると一面、緑と赤がちりばめられた美しい光景が広がっていました。熟れる直前と思しき、いちごの青っぽさと甘酸っぱさが混ざり合ったにおいに鼻先がくすぐられます。いざ、緑の葉の間から顔をのぞかせた完熟いちごを摘んで口に入れると…フレッシュな甘みと酸味が炸裂!採りたてのいちごってこんなに美味しいものだったのですね。大きな1粒を味わい尽くし、しばし瞑目。

さて、いちごは水に弱いと言われますが、それは水溶性の栄養素であるビタミンCやアントシアニン、ペクチンなどが水洗いをしたり、長く水につけることで流れ出てしまうから。この農園では摘みたてをそのまま食べれられるので、その心配はなし。また、摘んだいちごは練乳に付けて食べるほか「チョコレートフォンデュ」やお餅とアンコに挟んで「いちご大福」を作ることもできます。

糖度の高いいちごはツヤがあり、ヘタのすぐ下まで赤くなっているのがポイント

世田谷いちご熟でいちご狩りができるのは1月〜6月まで。夏は土壌の消毒期間、9月になると苗の植え付けが始まります。きっといちごの白い花が一面に咲く風景も美しいのでしょう。

「いちごは土がつくとすぐにやわらかくなり、傷むのも早いです。高設栽培だといちごが空中に浮いて地熱の影響を受けないので、実がじっくり熟していきます。来年は品種を1つ入れ替える予定です」と廣田さん。
ビニールハウスのなかでは機械で潅水と施肥が自動化されていますが、いちごの下葉や傷んだ葉などは1つ1つ手で除いていくそうです。

宙に浮いている状態のいちごは地熱の影響を受けないので、実がじっくり熟す

3月中旬、女性同士や男性グループ、親子連れが農園を訪れ、いちご狩りを楽しんでいました。
完熟いちごをハンティングし、胃袋を満たした、あっという間の30分。
はちきれそうなオナカをさすりながら「1年分のいちごを食べました」と息も絶え絶えに言うと「これで今年はカゼと無縁ですね」と目を細めながら仰った廣田さん。こんなに楽しくて胃袋が喜ぶビタミンC摂取なら年に一度といわず、近いうちに再訪したくなりました。

いちご狩りは30分食べ放題(練乳付き)。大人(中学生以上)2500円、子供(2歳〜小学生)2000円

世田谷いちご熟の開園情報や予約方法はホームページをご覧ください。

information

世田谷いちご熟

世田谷区中町4-32-1

Tel 03-3701-5171

https://setagaya1519.wixsite.com/setagaya1519