「あなたが絶対知るべき唯一のものとは、図書館である」

この言葉を残したのはドイツ生まれの物理学者、アルベルト・アインシュタイン。

世界に存在する本は膨大な海のようで、そのなかから出会えた1冊は一隻の船が深海を進む時の羅針盤に似て、人生という航路を導いてくれる存在になるかもしれません。

本を手に取るところ、読むところも読書には大きく関係するのではないでしょうか。

國學院大學渋谷キャンパスの「学術メディアセンター」1階にある「みちのきち」は不思議な装置を思わせる外観。一体、何だろう?と足を止めさせるナニカを放っています。

くぐるように中に足を踏み入れると、一段高いセンターには柿色の照明に照らされた本の並ぶ書棚と座り心地の良さそうな深緑のソファが並び、なんだかステージのよう。ここには好奇心をむき出しにする魔物が潜んでいるのでしょうか。初めて来たのに気後れすることなく、本と読む人を主役にさせるステージに立っていました。

ここは図書館というよりは、本のあるフリースペース。気に入った本と過ごすことはもちろん、勉強することも、誰かとのおしゃべりも、飲食や休憩することだってできます。

photo 木寺 紀雄

本のある空間が生まれた背景ですが、國學院大學が在学生にアンケートをとったところ、学生の本離れが進んでいるという事実がわかったことに端を発します。そこで、1人でも多くの学生にもっと「紙の本」に親しんでもらいたいという願いをこめて、大学ではブックプロジェクトを発足。プロジェクトに参加した大學内外のメンバーの熱い想いにより、「みちのきち」は2017(平成29)年に産声をあげました。

設計を手がけたのは設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」を率いる建築家・谷尻誠さん。本マガジンでも代々木上原にある谷尻さんの事務所兼食堂「社食堂」を訪ねています。一見、不思議な装置と感じた「みちのきち」の外観ですが、実は「木」がモチーフとなり、「くぐる」ことで木の中に入り、本の世界に没頭できるという仕掛けがなされています。谷尻さんは学生が本を身近に感じる空間とは何か?を追求し、設計されたそうです。

本と木がモチーフとなった「みちのきち」のグラフィックデザインはデザイナー・木住野彰悟さんが手がけたもの。

この「木」のなかには秩序ある美の配列ともいうべき、約800冊の本が並んでいます。「日本の来歴」「未知なる場所へ」「ものがたり」「神聖なもの」「食べる」「身体」「日常」の7カテゴリーに分けられた本の数々。選書を担当したのはブックディレクター・幅充孝さん。本は学生のインタビューを実施し、学生が手に取りたくなるものを選んだそうです。なお、神職課程のある大学ということもあり、とくに神道に関する本が充実しています。

本を照明が美しく引き立てる書棚。手にとってみたくなる演出だ

最近は電子書籍が普及し、スマホでも本が読める時代ですが、ここで紙の本と過ごしているとその魅力に改めて気づかされます。

紙の本の手に取った時のあの重さ。1ページにデザインされている文字や挿絵、写真、余白。紙をめくる時にたちのぼる、かすかなにおい。ページの向こうに広がる景色…。

「みちのきち」を立ち上げたブックプロジェクトが制作した本『みちのきち 私の一冊』は著名人109人の1冊の推薦書を紹介するもの。装丁デザインは「みちのきち」全般のデザインワークを手がけた木住野彰悟さんが担当

なお、2019(令和1)年には総合学修館(6号館)に「みちのきち 旅する」がお目見えしました。6号館には留学生や海外留学を目指す学生が多く訪れることもあり、ここでは「旅」をテーマに、世界の地域を紹介する約500冊の本が読めます。

総合学修館の1階にある「みちのきち 旅する」は高い天井から降り注ぐ自然光が気持ちよい空間。2階にはムスリムの礼拝所もある

解放感のある高い天井の下、壁際に配された書棚に並ぶ本と本の間にはデスクが設けられています。ここで勉強したり、本をめくったり。旅を愛する人にとっては至福の時間になりそうです。

さて、「みちのきち」の名前には未知のことを既知に変える基地、人生(道)の迷いに向き合う基地、機知に富んだ会話のできる大人になれるような本がある基地、という意味と願いが込められています。基地の土台になっているのは人を大切にするあたたかな想いです。

読書から得られるものは心の血となり肉となり、きっとそれは人生の航路に迷った時に何らかのかたちで舵を切るヒントをもたらしてくれるのではないでしょうか。

「みちのきち」も「みちのきち 旅する」も一般の利用も可能。紙の本が見せてくれる未知の世界に出航してみませんか。

INFORMATION

みちのきち

東京都渋谷区東4-10-28

國學院大學学術メディアセンター1階

http://michinokichi.kokugakuin.ac.jp/