ちょうど桜の枝から抹茶色の葉が顔をのぞかせ始めた2024年4月17日。
開業前から注目を集めていた商業施設「ハラカド」が、表参道と明治通りが交差する神宮前交差点の角地にオープンしました。
「若者の街」「流行発信地」といわれる原宿に登場したハラカドには個性豊かなショップやフードホールが展開するなか「銭湯」や「雑誌図書館」など、令和の時代から時計の針を逆戻りさせたかのようなレトロな空間も設けられ、話題をさらっています。
今回訪れたのは、「クリエイターが集まるプラットフォーム」をテーマに掲げたハラカド3階の一角にある5.5坪の小さなファクトリー「COPY CORNER(コピーコーナー)」。
店名だけ聞くと、コンビニやキンコーズで気軽に使えるコピー機を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。(実際、ハラカドのフロアマップで「COPY CORNER」の文字を見つけた時、コピーがとれる便利なスポットもあるんだ!と思ってしまいました)
COPY CORNERをプロデュースするのは日本文具界のリーディングカンパニー、コクヨ株式会社のクリエイティブ室「ヨハク_デザインスタジオ」。ハラカドから徒歩圏内にあるコクヨ直営のショップ&カフェ「THINK OF THINGS(シンク オブ シンクス)」のプロデュース・運営も行っています。
ファクトリーの主役はコピー機によく似たデジタル印刷機「リソグラフ」(理想科学工業)。
ここではリソグラフを使ったオリジナルのプロダクトを製作・販売するほか、ワークショップも開催しています。
簡単にリソグラフについてふれておきましょう。
リソグラフはシルクスクリーン印刷と同じ孔版(こうはん)印刷を採用したデジタル印刷機です。孔版印刷とは、版となるフィルムに無数の細かい孔(あな)をあけて図案を製版し、その孔を通してインクを転写する印刷方式。
製版と印刷が1台で完結するリソグラフは風合いのある発色や印刷時の予期せぬズレが独特の味わいとなり、アナログ感のある仕上がりが密かなブームを巻き起こしています。とくに海外のクリエイターに注目され、リソグラフを用いた作品は「RISOART」と呼ばれ、アートシーンを盛り上げています。
ファクトリーでコクヨといえばお馴染み!のキャンパスノートを見つけました。
しかし、ひと味違うのは表紙にグラフィックが施されていること。壁にかかっている時計やパズル、パッケージなども他所では見かけないような、オリジナリティを感じさせるデザインが採用されています。
この映える製品群はヨハク_デザインスタジオのデザイナーをはじめ、写真家、イラストレーター、建築家の方々がリソグラフを使って生み出したもの。ここではプリント(コピー、印刷)を単なるプロセスとしてとらえるのではなく“アイデアも出力する”という発想に基づき、さまざまなグッズを製作・販売しています。
今回はリソグラフのカードを作るワークショップに参加しました(所要時間 約1時間30分、参加費1人3,300円)。
講師を務めるのは、こちらのファクトリーで働く美大出身の棚木 絵玲奈(たなき えれな)さん。
中央部にある広い机に座ると、まずは講師、参加者の自己紹介から始まります。初めてのリソグラフ体験で少々緊張していましたが、ほのぼのとした自己紹介タイムのおかげで心が和みました。
色味はこちらの3種の組み合わせから1人1種をセレクト。
2枚の薄い用紙に素材を切り貼りして2つの版を作ります。
版作りの素材は2種。
写真がメインのタイプ(右)は有本怜生(ありもと れお)さん、グラスやメレンゲなどの愛らしいイラストがいっぱいのタイプ(左)は鳳崎優和(ほうざき ゆわ)さんが手がけられました。おふたりともヨハク_デザインスタジオ所属のデザイナーです。
今回、ワークショップには2人で参加。それぞれ異なる素材を選びました。
机で切り貼りする時間は約20分。
覚えておきたいのは黒い素材には色がのること、印刷時に色がはみ出ないように素材を紙に貼る時は四辺に3mmの余白を取ること。
「印刷した後の色味を考えながらじっくり切り貼りされる方もいらっしゃいます。一方、色の組み合わせは直感に任せて、出来上がった後の色味を楽しむという方も。あまり悩まず、楽しみながら作ってくださいね」と、やわらかい笑顔で話す棚木さん。
時折、2枚の紙を当てて版をチェックしながら、作業を進めていきます。
しかし、ハサミと糊をこんな風に長く使うのは久しぶり。
小学校の図画工作の時間が懐かしい!
大人も無心になる時間って必要です。
切ったり貼ったりと机の上で格闘していると、COPY CORNERにふらりと立ち寄る人が多いことに気がつきます。
(皆さん、リソグラフで製作したオリジナルのグッズに興味を示され、さすが原宿には高感度な人たちが集まるのだな、と横目でチラリ)
アルファベットや数字のスタンプなども用意されているので、好みで押すのもよいでしょう。
出来上がった版はこちら。
左がベースになる版。右の文字や写真がその上にのります。
いよいよ、リソグラフを使って製版・プリントがスタート。
ファクトリーの壁際に並ぶ専用のインクドラムのなかから2本を選び、印刷機本体にセット。リソグラフは色ごとに版を変えるのでインクドラムをその都度、入れ替えます。
ベースとした色の版がこちら。
もう1色は、どのように入るのでしょうか。
リソグラフは1枚1枚、色のノリやズレが違うのが魅力。
色が重なっていくプロセスもワクワクさせてくれます。
ついに、2色同時に印刷されました。
頭のなかで描いていたイメージと同じか否か…ライブ感あるご対面!これもリソグラフの醍醐味といえます。
カードに使用する紙は株式会社竹尾のファインペーパー「アラベール」。
印刷されたばかりの紙をカットする阿川鈴花(あがわ すずか)さんは「切る作業は意外と力が必要なので、背伸びして力を入れて切っていきます」。
2パターンのカラーで10枚ずつ作ったカードはこちら。
「今後はリソグラフの基礎知識や操作方法を習得し、データ作成からプリントまでの工程を身につける『マスタークラス』も定期的に開催していく予定です。マスタークラスを受講し、技術を習得された方はリソグラフを使って作品を製作することもできますよ」(棚木さん)
かつてはプリンター、ファックスと並び「オフィス版3種の神器」といわれたコピー機(複写機)ですが、会社やコンビニの片隅にあるコピーコーナーはなんとなく無機質で、コピーをとる用事がないとまず行かない場所。
人々の役に立ってはいるけれど、脚光を浴びるまでもない存在感のコピー機(ここではリソグラフ)を主役に据えたCOPY CORNERという、アナログな空気をまとったネーミングは時代に逆行しているようで、エッジを感じてしまいます。
さまざまなジャンルのクリエイターが集まるハラカド3階フロアの一角。
白のキャップとトレーナー姿のスタッフの方々が立ち働く姿も絵になる5.5坪のファクトリーは早くも異彩を放つ空間に。
ところで、ハラカドからほど近いキャットストリート沿いにはコンバースがカスタマイズできる「White atelier BY CONVERSE(ホワイトアトリエ バイ コンバース)」もあり、こちらでもCOPY CORNER同様、自分だけの“1点もの“が作れます。
オリジナルや初物にこだわる人にとって、原宿ははたまらなく魅力ある街。
街の宝ともいえる、その吸引力はハラカドにも宿っているようです。
INFORMATION
COPY CORNER
東京都渋谷区神宮前六丁目31番21号東急プラザ原宿「ハラカド」3階
TEL:03-6450-6513
https://copycorner.kokuyo.co.jp/index.html