世田谷区内で飲食店4店舗を経営する方に、年間支出の割合について尋ねたことがあります。支出のトップは人件費で全体の3割を占め、次いで仕入れ、家賃、光熱費の順番でした。このように飲食店における人件費は大きな割合を占めるもの。その比重が大きいほど、利益に影響を与えるといわれます。

ホールスタッフの仕事をゲストが行うことで人件費を料理の材料費にあて、本格的なフレンチをリーズナブルに提供する、一風変わったレストランが二子玉川にあります。
それがセルフサービスレストラン「TOKIO フレンチ ルナティック」。
お店は厨房の料理人のみでオペレートされています。

東急線「二子玉川」駅から多摩川の河川敷を下流に向かって歩くこと、約10分。
五月晴れ、緑さす川べりに面した2階建てのお店は、1960年代後半を席巻したヒッピームーヴメントのアジトを思わせる、野生味あふれる木造りの建物。

バーベキューを手ぶらで楽しめるスペース「Gekko」も併設する、多摩川沿いのお店

サービススタッフのいるお店なら、入り口のドアを開けたら「いらっしゃいませ」の声とともにテーブルへと案内されるのでしょうが、ここでは予約した席を見つけることから始まります。

入り口で席を確認すると、外階段を上がって2階へ

名前と人数で割り振りされたテーブルを確認後、2階のテラスへ。
正面に見えるのは真上から降り注ぐ陽光を受けて輝く二子玉川の「顔」である多摩川。風が頬を撫でつけ、目の前の自然あふれる光景に対面するテラスの7席はこの時期、最高のお席。12時半ばのランチタイムにはすでに満席でした。

季節の良い時は風が気持ちの良いテラス席がおすすめ。割り振りされた番号が記されたテーブルへ

テラス席に着くと、まずはメニュー表をめくり、注文方法について書かれたページをチェックします。
前菜からメイン、デザート、ドリンクなどが書かれたメニューページは写真と説明文も入り、とてもわかりやすい作り。
人件費をカットした分、原材料に割り振ったというお店の想いが込められた料理は前菜17品、メイン7品、パスタ・リゾット3品などがラインアップ。ビールやワイン、カクテルなども用意されています。

メニューが決まったら、自動販売機(または専用のスマホアプリ)で食券を求めます。
この時、気をつけたいのは食券を購入した時点で厨房にオーダーが通ってしまうこと。この日は初めてということもあり、勝手がわからないまま(撮影の都合もあり)料理を一気に頼んでしまいました。

本格的なフレンチがなんと食券制で!お店独自のスタイルを物語る食券の自動販売機

サービススタッフのいるレストランであれば、前菜、メインとゲストの頃合いを見計らって料理が用意されますが、このお店では厨房の都合が優先されます。もし前菜、メイン、デザートと食べ進んでいきたい場合はその都度、購入するのがベスト。スマホアプリの場合も同様です。

自販機で求めた食券。スマホアプリで注文した場合、料理受け取りの通知はアプリに届く

オーダーした後はお水をテーブルに用意したり、取り分けるお皿やカトラリーなどをセッティング。(結構、忙しい!)
自動販売機から注文した料理は番号がアナウンスされたら、その都度、厨房に受け取りに行き、食券と交換。飲み物だけは飲みたいタイミングで食券と交換し、その場で受け取れます。

カトラリー類はデザインがさまざまでテーブルに置くと“不揃いの調和”というのでしょうか、味わい深く感じられます。

さて、食券制・セルフサービスを導入するフランス料理店ではいったいどのようなメニューが楽しめるのでしょうか。グルマンでなくても気になる方は多いはずです。

前菜から紹介していきましょう。

フレンチのお店だから、これは是非!と所望したのが「パテ・ド・カンパーニュ」(980円)。
お肉の旨みがギュギュッと詰まり、ハーブとスパイスが馥郁というマジックを添えた肉肉しい一品です。

前菜をつまみに生ビールやグラスワイン(各650円)を楽しむ人も多い

「ブッラータチーズのラタトゥーユ添え」(1,390円)はテニスボール大のブッラータが丸々1つのっています。きっと他店だっだらこのお値段設定は簡単ではないはず。お皿のセンターに君臨するブッラータチーズにナイフを当てると、押し戻されるほどの強い弾力!取り分けたチーズはフレッシュな生乳の風味がたっぷりで、ピーマンやタマネギ、ズッキーニなどの煮込み野菜と好相性。

野菜煮込みに濃厚なチーズを絡めると、まろやかさと酸味が融合した慈味を感じる

続いて、お店の看板商品を。
「牛フィレのステーキ フォアグラのせ」(1,990円)に使われているフィレは牛肉の最高級部位といわれ、脂が少なく、しっとりときめ細やかな赤身肉。ミディアムレアに焼き上げられた厚みのあるお肉はバラ色の断面が華麗で、口に入れるとボルドーワインを使ったソースと濃厚なフォアグラソテーの旨みが絡み、なんともグラマラスで贅沢な味わい。噛みしめると舌の上に旨みがトロける、やわらかいお肉に感嘆の声をあげてしまいました。

ステーキの下にはなめらかな食感のマッシュポテトが。丁寧な仕事を感じる

こちらは牛フィレのスジ肉を使ったパスタ「アラビアータ」(1,260円)。
ご覧の通り、お肉がゴロゴロと惜しげもなく入っています。これだけでお腹いっぱいになりそうなボリュームです。もし二子玉川で働いていたら、時折ランチタイムにこのパスタを目当てに来たくなるかも…。そんな心と胃袋をしっかりつかむ“推し”な味わい。こちらも普通のレストランでは、このお値段での提供は難しいように思えます。

お肉の量に圧倒されるトマトベースのパスタはニンニク・唐辛子入りでスパイシーな味わい

〆は「アイスクリーム」(530円)を。
お店のオキテを把握し、前菜とメインをいただいた後に注文。初夏の油断ならない陽射しのもと、冷たい甘味を口に運びながらこの瞬間の幸せを余すことなく味わい尽くします。

バニラとカシスのアイスクリーム。デザートにはティラミスやブリュレなども

こちらのアイスクリームもそうですが、このお店ではどの料理もしっかりとしたお皿で提供され、余白を生かした盛り付けがなされます。

帰る前には食べ終わったお皿やカトラリーなどを厨房に運び、テーブルを拭きます。

お店のメニュー価格はすべてランチ、ディナー共通です。
1品を作る材料や調理技術を考えると、格安とはいえないものの、フレンチやイタリアンを食べ歩いてきた人にとってはリーズナブルといえるでしょう。
また、自分たちでサービスを行ったことで、普段、お店のホールスタッフがどれほど気を利かせてくださっているのか…そんな気づきの場でもありました。

木のテーブルが秩序よく並ぶ1階。この日のランチタイムは2階のみの営業だった

映える料理も良いですが、このお店が提供するクラシカルな料理も素晴らしいものです。
一緒に行く人を選ぶかもしれませんが、緑が燦然と輝く初夏の多摩川沿いの散策も兼ねて、お出かけしてみませんか。

information

TOKIO フレンチ ルナティック
東京都世田谷区玉川1-1-4
03-3708-1118
https://tokiofrench.com