皆さんは最近、「当てが外れた」ことはありますか?

アレレ、こんな展開ではなかったはずなのに…と、想定外の出来事に遭遇すること。
本マガジンの取材・撮影班が最近、当てが外れたのは桜の開花でした。
2023年夏に猛暑日が続いたことから、きっと桜は例年より早く咲き始めるだろうと思い込んでいたのです。

3月初旬のニュースで「今年の桜の開花トップは3月19日の東京で、21日に福岡、広島、名古屋、岐阜と続きます」と報道されたこともあり、よし、21日の取材・撮影時にはそれなりに桜も咲いているだろう!と考えていました。

しかし19日を迎えても、都内のあちこちに植えられている桜は早咲きの品種以外はまだ冬眠中か、硬そうなつぼみがチラホラ見られる程度。その2日後に訪れた「東京都立砧公園」もほとんど変わらず、園内に植えられた約930本の桜は遠目に見るとうっすらと小豆色に染まってはいましたが、一分咲きにもまだ時間がかかるだろうという印象でした。

ようやく東京の開花宣言が行われたのは3月29日のこと。
4月2日に再び砧公園を訪れると花時を迎えた桜がちらほらと見られ、この時を待ってました!とばかりに桜やヒマラヤ杉の下で花むしろを敷いて宴を行う人々の姿がありました。
皆、首を長くして今年の花時を待っていたのでしょうね。

12日後に再訪した時には五分咲きに。「ファミリーパーク」は花見客で賑わっていた

東京・城南地区のなかでも桜狩りの地として、しばしば名前が挙がるのが砧公園。
元ゴルフ場で、その当時の面影を残す約39.1 haの起伏ある敷地は見渡す限りの青い芝生と樹林地帯のなかに小川が流れ、世田谷美術館や野球場、小サッカー場、サイクリングロード、バードサンクチュアリなどを擁します。

公園の向こうにそびえ立つ約100mの世田谷清掃工場の煙突は地域のランドマークとして親しまれている

待望の花咲く春。
砧公園で愛でられる花や見どころを紹介していきましょう。

東急田園都市線「用賀」駅が最寄りの公園正門を入り、しばらく歩くと視界を占めるのはネムノキやシラカシが林立する「ねむのき広場」。その脇に整備されている「八季の坂道」は、季節を8つに分け、その時期に旬を迎える植物が植えられています。近くには「バラ園」もあり、初夏の見頃を迎えると、芳しい花の香りを風が運んでくれます。

大きな木陰を作るシラカシ。四季を通じてピクニック客に愛されている
「八季の坂道」には色とりどりの花が植えられており、歩くだけでも季節を実感して楽しい気分になる

このあたりから「世田谷美術館」に行く途中の右側には早春の見頃を終えた梅林の姿が映ります。
梅林前にあるのは「PARKS砧梅園前」店。この売店ではたぬきの焼印が押された名物「きぬた焼き」(200円)が購入できます。春限定で桜あんのきぬた焼きや桜風味のソフトクリーム(450円)なども登場。ちなみにPARKSは園内に2店ありますが、きぬた焼きが味わえるのはこちらのお店だけです。

ぽんと焼き入れられたたぬきの顔がかわいい「きぬた焼き」
割ってみると桜の餡が! お店の方曰く、「桜が散るまで」と何とも風流な期間限定商品だそう

砧公園の敷地は広いので、東急田園都市線「用賀」駅に近い入り口からたくさんの桜が群れなすファミリーパークや世田谷美術館にたどり着くには個人差もありますが、およそ15〜20分はかかります。PARKS近くにはベンチが用意されているので、きぬた焼きをお供にひと休みするのもよいでしょう。

PARKS近くのベンチの前では大道芸人が芸を披露している事も。アイスを食べながら面白い芸の数々を眺めるのもまた一興

世田谷美術館ではこんな“花”を楽しんではいかがでしょうか。
世田谷ゆかりの彫刻家である向井良吉の『花と女性』(1969年)です。
地階にある「創作の広場」に設置されている巨大レリーフは高さ3.3m、幅約14.5mのアルミ製。女性の顔のそばには色々な花が緻密に彫られています。その隣りは『恐竜』のオブジェ。こちらは1985年に地域の児童20人によって作られた作品だそうです。

展覧会のチケットがなくても入館可能なエリアにある2点のアート

世田谷美術館から西方面に進むと、数あまたにしてダイナミックな桜の姿に言葉を失うファミリーパークへ。
なかには地面にまで枝を大きく張り出している桜の大木も息づいています。
野趣に富み、麗しさも備えた春の自然美。
「眼福にあずかる」と文学(芸)的に表現したくなるのはきっと、桜の魔力のなせる技なのかもしれません。

自由奔放にうねる桜の木の枝は圧巻。思わず童心に返って登りたくなってしまうが、園内の木は木登り禁止となっている
寒々しかった桜の枝も、開花すると一気に華やかに。皆思い思いに花見を楽しんでいる

桜陰(さくらかげ)で宴席を設ける人たちも後を絶たない花時。
桜狩りだけではなく、砧公園には美しい自然の景観も随所に見られ、心のライブラリーにその姿を収めたいものです。

園内に流れている谷戸川もその1つ。
川には橋が3つ架けられている他、北側には吊り橋も。ここからは小さな滝も見られ「ここは東京23区内だっけ?」と豊かな自然の様相を目の当たりにして、しばし思考停止。

ファミリーパークの北西部には「サイクリングロード」や「バードサンクチュアリ」が整備されています。サイクリングロードでは駒沢大学陸上競技部の皆さんが果敢に練習され、その走るスピードの速いこと!後で知ったのですが、砧公園は駒沢大学陸上競技部の練習拠点になっているそうです。

走り込みをする駒澤大学の選手。とても追いつけそうにないハイペースで、彼らがよく練習している事がうかがえる

疾走する選手たちの後ろ姿を眺めながら到着したのは、バードサンクチュアリ。
野鳥観察台の前にはなんと、太陽の陽射しをまとったような黄色が眩しい、菜の花畑が広がっていました。

観察台には小窓が設けられ、水辺や樹木に集まる野鳥を見ることができます。
この日、観察台でお会いした大きな望遠レンズ搭載のカメラを担がれていた男性は「バードサンクチュアリ内の沼が枯れている時はあまり鳥がやって来ないんですよ。今日は全然見られなかったです」と残念そう。

このバードサンクチュアリにはシジュウカラやヒヨドリ、カワセミ、アオサギなどがやって来るそうです。観察台には飛来する野鳥や見分け方などが紹介されているので、野鳥観察が初めての方でも気負いなく楽しめることでしょう。

砧公園の桜時は当初、当てが外れてしまいましたが、いざ開花を迎えるとそれは忘却の彼方。園内でこれから満開を迎えるだろう五分咲きの桜を目の当たりにした途端、心に明るい色彩が射し込んできました。

咲き始めた桜の花。蕾もまだ多いが、種類によっては多くの花が咲いているものも

花の開花は天の気分(はからい)によるもので、人間は予測できたとしても、到底コントロールはできません。
文豪シェークスピアも『ハムレット』のなかで書いています。
「天と地の間にはいわゆる哲学の思いも及ばぬ大事がある」と。

1年に1度の桜。
惚れ惚れする満開を過ぎても、零れ桜や桜吹雪が舞う頃まで楽しみましょう。
この季節はどういうわけか天候不順がつきもの。くれぐれも花冷えにはお気をつけて。

INFORMATION

砧公園
世田谷区砧公園・大蔵一丁目・岡本一丁目
03-3700-0414(砧公園サービスセンター)
https://www.tokyo-park.or.jp/park/kinuta/index.html