建築家が手がけたレストラン。
ユニークなのは内装に紙筒を多用していること。
ここまで聞いたら建築愛好家の多くは、その作り手が誰なのかピンとくるのではないでしょうか。

坂茂(ばん しげる)さん。
建築のノーベル賞といわれる「プリツカー賞」を受賞した「紙の建築家」として知られる坂さんが手がけたのは世田谷区代沢にある北沢川緑道沿いのレストラン「vin sante(ヴァンサンテ)」。フランス語でワインを意味する「vin(ヴァン)」と坂(バン)さんの苗字をかけた店名となっています。

ガラス張りで柱がほとんどなく、木と紙筒を基調としたお店は静謐に佇むヴィラのような存在感。内側と外側の境目があるようでないようで、緑に心を和ませながら羽を休めたくなる…そんな場所。

レストランではいたるところで紙筒にふれることができます。
エントランスの小さなカウンターテーブルは紙筒を垂直に立てて作られたものだし、ダイニング空間の壁から天井にかけては紙筒を並べたなだらかな曲線が心地よく、ワインボトルの収納を兼ねたパーテーションの優雅な抜け感にうっとり。そして連なった紙筒の上に座るという斬新な仕掛けがなされた椅子。

店内のどこに座ってもゆったりとウェーブする紙筒の天井を楽しめる

ポスターを入れる時に利用する紙筒がこれほど素敵な役割を果たすとは!

座面は硬いかと思いきや、ふわりとした優しい座り心地。ついつい長居してしまいそう

木と紙筒が温かみを感じさせる店内で楽しめるランチは、パリの星付きレストランで腕を磨いたシェフによるパスタや肉、魚料理(サラダ、パン、デザート、飲み物付き)など、全7種。

「海老と小松菜のトマトパスタ」(2480円)は、トマトソースがたっぷり絡んだもっちりと弾力のある麺が楽しめる一品。海老と小松菜との相性の良さを存分に感じさせます。

骨付きのビジュアルがなんとも食欲中枢を刺激する「鳥取大山鶏の骨付きモモ肉のコンフィ」(3080円)は身がホロリと崩れ、鶏モモ肉のジューシーな味わいが後を引きます。

「ひらすずきのポワレ ケッパーソース」(2970円)はバターの香ばしさと塩気が絶妙なバランス。魚の旨みを引き出すケッパーを主役としたソースの力に感動。

デザートがお腹を満たす頃は心がふくらみ「美味しいものは人を幸せにするよね」という言葉が生まれると、テーブルが晴れやかなムードに。

スフレチーズケーキ(ライム風味)。デザートは<本日のデザート>約7種類の中から選べる

ところで、このお店を手がけた建築家の坂さんは阪神淡路大震災以降、被災者が生活する避難所で、設営が簡単な紙の間仕切りシステム(Paper Partition System)を提供しています。最近ではウクライナから出国した難民が暮らすポーランドの施設にもこのシステムが導入されているそう。

紙筒の断面をデザインに取り入れたロゴはデザイナー稲葉英樹さんによるもの

天気の良い日はウッドデッキも開放。
デッキの目の前は北沢川が暗渠化した緑道と小川が整備され、春は桜、初夏は紫陽花などが目を楽しませてくれます。
今はなき北沢川はその昔、「世田谷のセーヌ川」と讃えられたこともあるほど、美しい流れの川で野生のイモリやザリガニ、カメなども生息し、子どもたちの遊び場だったそう。
新緑が気持ち良い季節、若葉をたくさん付けた緑道の木々とともに食事を楽しんではいかがでしょうか。

店内からでも気持ちの良い緑道の景色を楽しめる
緑道の真ん中に流れる小川はすがすがしい雰囲気。川沿いをのんびりお散歩するのも食後の楽しみのひとつ
INFORMATION

vin sante
東京都世田谷区代沢4-39-7
TEL 03-3419-2520
http://vinsante.tokyo