「ナナシノ」と聞くと、たいていの場合「ゴンベエ」と返ってきます。
「名無しの権兵衛」は名前がわからない人や持ち主のわからないモノに使いますが、中目黒で「ナナシノ」と言えば「四季でメニューが変わるスイーツ屋さん」が通説になりつつあります。

中目黒駅前から約900mにわたって続く、ちょっとレトロな空気をまとった商店街にあるビルの2階。
ここが「ナナシノ」の本拠地で、春は桜スイーツ専門店(2024年は3月1日(水)〜5月24日(金)まで )「ナナシノ桜菓子店」に、夏はかき氷専門店(6〜9月)「ナナシノ氷菓店」、秋は焼き芋スイーツ専門店(10〜12月)「ナナシノ焼芋店」、冬はチョコレート専門店(1〜2月)「ナナシノショコラ」となります。

有名ベーカリー「TRAS PARENTE」などがある賑やかな通りに面している

メニューに季節を織り込んだスイーツを楽しめるお店はクラウドファンディングを経て、「記憶に残る最初のひと口」をコンセプトに掲げ、 2021年にオープン。
四季の巡りに合わせてメニューが変わる仕掛けや自家製の具材を貫く凛とした姿勢、写真映えする美しさなどがスイーツファンの心をつかみ、今やネットでの席予約(1時間制)も争奪戦!に。

「ナナシノ」が入居するビル。21時からスタートする予約は文字通り争奪戦。取材日は土曜日で、予約開始から3分後には満席になっていた

春の「ナナシノ桜菓子店」は入店前にドアの前で予約時間を待つのですが、この待ち時間はなんだか貴重なスイーツを味わうぞ!という士気を高めてくれるよう。ちなみにうかがった時間帯、行列を作っていたのは女性ばかりでした。

2人の女性が切り盛りする、白色を基調にした清潔感あるお店はカウンター6席に2人がけのテーブル席が1つと、こぢんまりとした空間。

提供される桜菓子はテリーヌやかき氷、イートンメス(パフェ)など。
桜をテーマにしたユニークなドリンク類も用意されています。

こちらは「さくらのテリーヌショコラ〜チーズクリーム~」(950円)
ペースト状の塩漬けした桜の花と葉を練り込んだホワイトチョコレートを焼き上げた層の上に、クリームチーズのムースが重なっています。
テーブルに運ばれると、なんとその場でカカオバターと桜風味のピンク色のスプレーをかけて完成!このライブ感もお店の強味といえます。

まっさらな状態で出てきたテリーヌ。これもこれで上品さがあり美しいが、スプレーをかけると…
ぷしゅっとスプレーを一吹きしてもらうと、白かったテリーヌがほんのり色づき、一気に「桜」らしさが出てくる

お店の方によると「最初はそれぞれの層を、次は2層を合わせて食べてください」とのこと。どちらもタイプの異なる濃厚な風味で、この2つが口のなかで溶け合うと味わいが掛け算になるという魅惑的な仕上がり。

次いで眼と心をキュンとさせてくれるのが「桜のイートンメスのグラス」(1,650円)。
なかには「イートンメスって何?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
「Eton(イートン)」とは英国の由緒あるパブリックスクール、イートンカレッジのことで「mess(メス)」はぐちゃぐちゃとか混乱という意味。
英国の伝統的なデザートで、名前の通りにフルーツ(英国ではイチゴを多用)やクリーム、メレンゲをかき混ぜて食べるのが本場流です。

「桜のイートンメス」はmessにしてしまうのが勿体ないと感じてしまうほど美しい見た目

桜のチュイールがトッピングされたイートンメスは桜のメレンゲ、桜の花びら、生クリーム、粒あん、日本酒ゼリー、いちごのコンポートなどがグラスに入っています。

このイートンメスをいただく時は「下に、下に」がお約束です。
江戸時代の参勤交代のことではなく、スプーンを下に下にと進ませて具材を引き上げ、混ぜ合わせるわけですが、グラスの底に潜り込ませて秩序ある美を崩していくことに罪悪感を抱いてしまうほど“カワイイ”が宿っています。たとえると、イートンメスと同じ英国生まれの「キャス・キッドソン」の世界観に通じる愛らしさ。

グラスにぎゅっと詰め込まれているバラエティに富んだスイーツ具材が混ざり合うと抽象画のようなカオスな見た目になりますが、食べ進むごとに多種多様な甘みが息を合わせ、最後のひとすくいに一抹の寂しさを感じるほど。

ちなみに、このイートンメスは期間限定メニュー。
もし、提供されている時に予約が取れたらぜひ味わってください。

「濃厚自家製さくらオレ(ICE)」(850円)。もこもこの泡は放っておくとどんどんしぼんでしまうので、写真を撮りたい方はお早めに

さくらのシロップの濃さが選べる「自家製さくらオレ」はあえて、濃い目をオーダー。
ビーカーのようなカップに入ったシロップを入れるとみるみるうちに、白い液体がピンク色に染まっていきます。はるか昔、絵の具の白と赤を混ぜ合わせたらピンク色になったことを発見した時を彷彿する瞬間。「味見をしながら調整していこう」と言いながら時折、味わってみましたが「まだいけるかも」という状態の末、全て入れることに。

ちなみに、原液はさぞ濃いのかと思いきや案外薄味。それなのにオレにはしっかり桜の風味がつくので面白い

当初は「濃厚で甘ったるい」味を想像していましたが、一口いただくと意に反して塩気が気骨を感じさせるドリンクに仕上がっていました。
甘味よりも塩味が引き立つ、この計算し尽くされた味わい…考案されたお店の方、さすがです!

かき混ぜると塩漬けの桜の花が妖艶に舞う「自家製桜ソルトのクラフトコーラ」は、スパイシーで塩気と甘味のバランスに感嘆。
コーラそのものもきっと逸品なのだろうなと感じました。

「自家製桜ソルトのクラフトコーラ(ICE)」(700円)。桜の花の塩漬けは食べられるので、甘味と甘味の間のお口直しにもぴったり

なんと、お店では自家製コーラの作り方をNoteで公開されていました。
クラフトコーラのシロップを作る際の参考にしてはいかがでしょうか。

1年を通じてあれもこれもといった器用さではなく、4つの季節にそれぞれ合うスイーツだけを届けるという、突き抜けた潔さ。
そんなお店のお味を一度体験すると、他の季節の味わいも楽しみたくなるはずです。
営業日は水、金、土、日。予約は2日前の21時〜受付スタートです。
なお、支払いはキャッシュレスなので、ご用意をお忘れなく。

INFORMATION

ナナシノ
東京都目黒区上目黒2丁目13-6 Jouet中目黒201
https://tsuku2.jp/nanashino