自由が丘の邸宅街の一角、真っ青に茂った草むらにさりげなく置かれたサッカーボール大の透明ガラスのオブジェが。
予約の電話をかけた際に告げられたイタリアンレストラン「mondo(モンド)」の目印を見つけると、細い道をひたすらまっすぐ。つきあたりの階段を下りると“秘密の園”にたどり着きます。

「ここにある」という事を知らなければうっかり見過ごしてしまいそうなガラス玉のオブジェ。いかにも隠れ家への入り口という風情に胸が躍る

まさかこんな空間が隠されていたとは…。この導線もmondo流のお楽しみでゲストは皆、別世界を体験してからテーブルに着きます。

ガラスのオブジェが置かれた小道を進み、階段を下りた先にあるお店。こぢんまりとしたお庭のグリーンが心地よい

メインダイニングにはジグソーパズルの1ピースを連想させるユーモラスなデザインの大きな木のテーブルが置かれ、数人が着席するスタイル。とはいえ、席の間隔にはかなりの余裕があるし、他のゲストと向かいあうこともありません。気の置けない絶妙な配置にお店の気遣いを感じます。

お昼はランチコース(6,600円)が用意されています。
最初に出てくるのは「お野菜のスープとオリーブ」。
野菜の皮や切れはし、ヘタなどを使う野菜スープ「ベジブロス」とサルシッチャ(イタリアの腸詰め)を巻いたオリーブのフライ。届く野菜の種類によって毎日味が異なるというベジブロスは濃厚な風味。口に入れた途端、身体に栄養が一巡しそうな1杯をいただくと否が応でもこれから目の前に登場するお皿の数々に期待を寄せてしまいます。

ランチコースは野菜スープとオリーブフライのペアからスタート。選りすぐりのワインやソフトドリンクも用意されている

こちらは5種のパン。
お店のお庭で採れた植物の実を使った天然酵母の「オリジナルパン」をはじめ、クミンの風味豊かなハードな「黒パン」、トリノ発祥の「グリッシーニ」、パルミジャーノレジャーノそのものを食べているかのような「パーネ・カラザウ」など。

お菓子のような形状のものも全てパン。サクサクとした食感は新鮮で、癖になりそうな豊かな香りが広がる

「鳴門産ボラ(村さん〆)とお日さま農園の根菜のタルタル」は獲れたてのボラと山形県の「お日さま農園」から届いた赤大根をあえた1品。この日は赤大根でしたが、お日さま農園から届く野菜は毎日同じではなく、その日のお楽しみだそう。シャキッとした赤大根とねっとりとしたボラに柚子の風味が加わると、ふくらみのある味わいに。

徳島の漁師、村さんによって〆られたボラと赤大根のタルタル。菊の花が華を添える

冬季はジビエを好んで食べる方もいらっしゃるかもしれません。
mondoでもジビエをランチコースに取り入れた「エゾ鹿の温製カルパッチョと極みエノキ」がそう。さりげなく敷かれたゴルゴンゾーラの上にはやわらかなエゾ鹿の裏モモ肉と旨みの強い高知産の極みエノキとナッツをトッピング。ナッツの歯ごたえが心地よく、ねっとりとした鹿肉とエノキが溶け合うと、口の中はもはや恍惚の境地です。

ほんのりとあたたかいエゾ鹿のカルパッチョ。口に運ぶとそのやわらかな食感に感嘆する

さて、店内ではプリンスやデビッド・ボウイ、アバなど、70〜80年代のロックがほどよいボリュームでかかっています。イタリアンとロックのコンビネーションはなんだか新鮮。そんな心をくすぐる曲のチョイスはソムリエでもあるホールスタッフの方が担当。気軽に音楽のお話もできます。

楽しいおしゃべりのお供となってくれたエルダーフラワーのソフトドリンク(1,100円)

お魚、お肉の後はパスタが登場。
「白子とカラスミのバベッテ」は濃厚な白子のソースとカラスミが麺にからまって口の中にまろやかに広がっていきます。「雀の舌」という意味のバベッテは平たい楕円形の麺。ぱっと見はリングイネに似ていて、モチモチと弾力に富んでいるのが特徴です。お皿に残ったソースはパンに付けていただきましょう。

贅沢にもお皿全体にカラスミがかけられているパスタ。クリーミーな白子のソースをカラスミの塩気が引き立てている

まさか、イタリアンに熟れ鮓が登場するとは…。
着席し、ナイフとフォークの横に添えられたメニュー表を見て以来、ずっと気になっていたのが「鮒の熟れ鮓とちりめんキャベツのリゾット」。
塩漬けした鮒(ふな)とお米を漬け込んで乳酸発酵させた熟れ鮓を使ったリゾットの上にはカリカリに焼かれたキャベツと生ハムがのせられています。

カリカリに焼かれたキャベツと生ハムの食感が斬新。熟れ鮒との組み合わせにシェフの遊び心を感じる

イタリアンの概念をキモチよく吹き飛ばしてくれるリゾットはほぼ同じタイミングで大テーブルに着席するゲストの前に並びました。
間もなく、メインダイニングにはそれぞれのお皿とフォークがやさしくぶつかりあうことで美しい波音のような心地のよい響きが。耳に流れ込んでくるうっとりとした音色は日本の伝統食を用いたリゾットの滋味豊かな味わいを深めてくれるよう。

メインディッシュは「新潟産もち豚ロースと福田農園のキノコ、トマトのオーブン焼き」。トマトのなかにはハーブバターが詰め込まれ、崩したらソースになるという仕掛けが。豚肉は小さめのポーションなので、満腹中枢を刺激されたお腹にもほどよいボリューム。お店のやさしさを感じます。

焼きトマトに詰め込まれたハーブバターがジューシーな豚肉に絡み、絶妙な味わいを生むメインディッシュ

しめのデザートは「アップルパイと台湾紅茶のアイスクリーム」。
パリパリサクサク食感のアップルパイの下にはリンゴジャムが敷かれ、あわせて食べるとそれぞれの上品な甘みが絡み合います。
台湾の紅玉紅茶の茶葉を使用した、エキゾチックな強い香りが立ちのぼるアイスクリームは舌の上をひんやりさせ、コースの余韻に気持ちよく浸らせてくれるよう。

自家製リンゴジャムの上にのせられたアップルパイ。台湾紅茶のアイスクリームとの好相性を感じる

約2時間をかけてのランチ。
窓に目をやると、冬の陽射しを受けてやわらかく耀(かがよ)うお庭の緑がまるで借景のようでした。クリスマスシーズンという1年でもロマンティックな気分がたなびく季節は、お店への導線もワクワクさせてくれる隠れ家のようなレストランでちょっとリッチなお食事を楽しんでみませんか。お店の写真は料理のみ可能ですが、きっとシェフ渾身の料理は心と胃袋の”お気に入りフォルダー”に保存されるはずです。

INFORMATION

mondo
東京都目黒区自由が丘3-13-1
TEL 03-3725-6292
http://ristorante-mondo.com