JR五反田駅東口のロータリーを挟んで、ほぼ正面。年季を感じさせるレトロな書体で書かれた「グリルエフ」の看板を目にした時から、この老舗洋食店を“嗜む”時間が始まります。
グリルエフが創業したのは1950(昭和25)年。外壁の色あせたレンガ、壁をはうように伸びているツタ、ゴシック系書体の「F」の文字がアクセントとなっている庇が月日を語る外観は、創業当時のまま。戦後5年を経た東京ではモダンな建物だったことでしょう。
店内に入ると期待以上の空間が待ち受けています。それはまるでお店の庇に配されているゴシック調の「F」の世界観を表現したような空間。扇風機がゆっくりと回る高い天井に、おそらく経年変化による飴色の壁など、さっきまでのJR五反田駅周辺の雑踏を一瞬にして忘れさせてくれるインパクティブな雰囲気を作っています。
お店の奥はシェフが立ち働く様子がよく見えるガラス張りの厨房。70年以上に渡って、お客さんの心と胃袋を幸せに満たしてきた料理が誕生する場でもあります。
裏メニューのハヤシライス
お店の名物とも、裏メニューともいわれるのが「ハヤシライス」。
メニュー表にはのっていなくても、今や多くの人が注文するこの料理は当初、お店のまかない料理だったそうです。一般的なハヤシライスの概念を見た目からくつがえすこのメニューは、アラジンのランプを思わせるソースポットにルウが盛られ、ライスは別皿で運ばれてきます。ルウにはたっぷりの牛肉と玉ねぎ、マッシュルーム、そして鮮やかな緑色が美しいグリーンピースがトッピングされています。
ハヤシライスに使われているデミグラスソースは創業から継ぎ足して守ってきたもので、お店の守護神ともいうべき存在。さぞかしコックリと濃厚で…と思いきや、意外にもサラッとしたあっさり系。しかし、香ばしさと甘味とコクをあわせもち、滋味深い味わいがのどを通ると全身に染みわたっていきます。
メニュー表をめくると、種類が豊富なことに驚かされます。カニクリームコロッケをはじめ、カツレツ、魚やお肉のソテー、パスタ、サラダ、そしてハムエッグまで。どれも単品のオーダーで、主食を頼むならライスかパンを別途選ぶスタイルです。ちなみにフランスパンを頼んだらボウルに氷を入れ、その上に角切りのバターがのせられています。最後まで熱で溶けることなくバター本来の旨みを味わえる硬さを保つための配慮に感動!
お店では、重厚なカトラリーとお皿のぶつかる音、人々の話す声が混じりあって心地の良いざわめきとなり、そんな空間に身を置いていると、かたくなっていた心の結び目がだんだんゆるやかになっていくよう。それが名店と言われるお店が有する「天の配剤」なのかもしれません。グリルエフはそんなことを感じさせてくれるお店なのです。
グリルエフ
東京都品川区東五反田1-13-9
TEL03-3441-2902
http://grillf.rgr.jp