1980〜1990年代に日本では「アジア系のエスニック料理」がブームとなり、私たちの食文化に浸透していった感があります。
主にはタイやベトナム、マレーシア、インドネシアなどの料理です。
なかでもタイ料理は毎年「タイフェスティバル」が約30万人を動員し、代々木公園で開催される国際フェスティバルの中で最も人気を誇ることからもわかるように、アジア系料理のなかでも頭一つ抜けた存在。
「酸っぱ・甘・辛い」と表現されるタイ料理ですが、最近では日本にあまり紹介されていない郷土料理をメニューに取り入れるお店が増えたような気がします。
今回紹介する「カオヤム」もその1つ。これはタイ南部の料理で、首都バンコクでも提供するお店は限られています。
タイ語でカオは「お米」、ヤムは「あえる、混ぜる」という意味。
「お米のサラダ」といわれるカオヤムを食せるのは渋谷公園通りのファッションビル「渋谷パルコ」4階のタイ料理店「Chompoo(チョンプー)」。
2019年11月、渋谷パルコのリニューアルオープンと同時に開店したお店では、タイ料理をモダンに仕上げた新感覚の料理が楽しめます。
大きなガラス窓に囲まれた外観はやや無機質で、敷居が高そうな印象。
しかし、店内に入ると座り心地のよいチェアが配された大テーブルや柿色の光を放つ照明にシェフが立ち働くオープンキッチンなどアットホームなもてなしの空間が広がっています。
お店のカオヤムが運ばれてくると、まずブルーに染まったご飯にくぎ付けになることでしょう。一見、奇をてらった感じですが、夏場は涼を呼んでくれるよう。
そしてご飯の周りをグルリと囲む沢山の具材に感嘆!
このご飯は「バタフライピー(蝶豆)」の花で染められたもの。
バタフライピーは煮出すとインクのように青色が染み出し、タイではそのままドリンクとして、ジャスミン米やモチ米を浸して色づけることもあります。
ちなみにレモンや酢などを加えるとピンク色に変わるので、味変ならぬ「色変」が楽しめますよ。
ブルーのご飯を取り囲んでいるのは人参、キュウリ、モヤシ、ミョウガ、インゲン、菊の花、干しエビ、パクチー、イチゴ、コブミカンの葉、レモングラス、玉ネギなど。(お店の方にうかがったら、シェフにすべての具材を聞いてくださいました!)
のっている魚は通常は鯖ですが、夏場はこんがりとグリルした鮎を使用。
これをすべて混ぜ合わせたらライムを絞り、鮎のキモ、ナンプラー(魚醤)をかけていただきます。
美しい見た目もですが、口に運ぶと二重の感激!
多種の具材が複雑な妙味を生み、食べ進むうちにやさしさと繊細さを感じ、瞑目してしまいます。
はたまた、濃い色彩の花々と熟れたフルーツの混ざり合った匂いが立ちこめる向こうに黄金色に輝くタイの寺院が一瞬、目に映ったのは彼の地への追憶か幻想か。
また、日本の粘り気のあるお米ではなく、タイのパラパラとしたお米だからこそ、このサラダが成立するのでしょう。料理はその土地の文化を如実に反映するもの。やはり郷土料理にはその土地の食材であるべき理由が、ちゃんとあるのです。
タイ北部でよく食べられているカレーラーメン「カオソーイ」もランチメニューにラインアップ。
もっちりとした太めの卵麺とトッピングされた揚げ麺をココナツミルク入りのスパイシーなカレースープでいただきます。
タイ出身のシェフの遊び心が伝わってくるウサギをかたどったゆで卵にほっこりしながら、オシャレにアレンジされたカオソーイをいただくと、心も身体もパワーチャージ完了。
とくに夏場、体が無性にスパイスを欲するのは食欲増進や夏バテ対策を求めているサインなので、しっかりと体が訴える声に耳を傾けてあげましょう。
さて、マンゴーが出回っている時期にタイの人たちがこよなく愛すメニューも見つけました。
「カオニャオ・マムアン」(カオニャオは蒸したモチ米、マムアンはマンゴーの意味)はマンゴーの季節である5月下旬から7月中旬にかけて食べられるデザート(タイ人にはこれは料理だと主張する人もいる)。
ココナツミルクで炊いた塩気のあるモチ米にマンゴーが添えられ、一緒に口のなかに運ぶと美味しいを通り越して「快楽」ともいえる、一種不可抗力的な魔力が潜んでいることを確信するはず。
現地の味をそのまま、というよりも日本の食材を取り入れて繊細かつスタイリッシュに昇華させたチョンプーのタイ料理。
一風変わったタイ料理を味わいたい方はぜひ、体験してはいかがでしょう。
INFORMATION
Chompoo
東京都渋谷区宇田川町15−1 渋谷PARCO 4F
TEL 03-6455-0396
https://www.instagram.com/chompoo_shibuya/