国道246号を車が絶え間なく行き交い、玉川高島屋周辺には買い物客の賑わいが広がる二子玉川。その喧騒から少し離れた住宅街の坂道の途中に「瀬田玉川神社」は静かに佇んでいます。

境内へ続く急な石段を上っていくと、思わず足を止めて振り返りたくなります。
眼下には二子玉川の街並みが広がり、その向こうには上野毛の高台や楽天クリムゾンハウスの姿も見えます。しかし、視界の多くを占めているのはこんもりと幾重にも重なる緑。石段を上るにつれて街の気配は遠のき、その代わりに鳥の声や木々を渡る風が耳に届きます。

瀬田玉川神社が鎮座するのは、国分寺崖線の高台の上。
国分寺崖線とは、多摩川が長い年月をかけて大地を削ることで生まれた崖地形で、東京西部の立川市から大田区まで、約30kmに渡って連なっています。本マガジンでかつて紹介した「多摩川浅間神社」も崖線の高台に建造されています。
地形そのものの力を借りるように築かれたこの場所は、古くから地域を見守る鎮守の杜として、人々の祈りを受け止めてきました。二子玉川の繁華なエリアに近いものの、ここには崖線が育んだ自然と歴史が今も色濃く息づいています。

境内に足を踏み入れると、木々に包まれた静謐な空間が広がります。御祭神は大国主命、少彦名命、日本武尊をはじめとする神々で、古くから地域の鎮守として崇敬を集めてきました。

こちらの絵馬はイラストレーター・蛭子能収氏の妻、蛭子悠加さんが奉納したもの。
柔らかな筆致で描かれた愛嬌たっぷりの馬の姿は、思わず足を止めて見入ってしまう親しみやすさがあります。

境内には2対の狛犬が配されています。
鳥居に近い1対はどこか南国のシーサーを思わせる造形で、精一杯に睨みを利かせながらも、その顔には茶目っ気が滲んでいます。
また、社殿に近い場所に鎮座する狛犬は川崎市溝口の石工によるもので、長い年月を経た石肌は風雨に磨かれてなめらかな質感を帯びています。子どもと戯れる狛犬は威厳を備えながらも、どこか人懐っこい表情。2対とも地域の人々に親しまれていることでしょう。

社殿の裏手へ回ると、空気がふっと変わります。
稲荷神社が鎮座するこのあたりは竹林の緑を背に、自然光の差し込む時間でも、薄暗い静けさに包まれています。鳥居が連なり、苔むした足元に木漏れ日がまだらに落ちる、この場所は社殿周辺の凛とした空気とは異なる原始的な気配が渦巻き、境内の中の隠された密やかな神域…という感覚を覚えます。


訪れた日には小さな子どもを連れた親子やひとり静かに手を合わせる女性の姿もありました。それは、暮らしの中にある神社ならではの穏やかな時間。
なお、近隣に鎮座する「瘡守稲荷(かさもりいなり)」も瀬田玉川神社の管轄。欅をはじめとする背の高い木々に抱かれた小さなお社もまた、人知れず土地を守り続けてきた祈りの拠点といえます。

二子玉川の賑わいからほど近い立地というのに、ひとたび崖線が作り出す坂道を上れば、そこには地形が育んだ森と祈りの時間が流れていました。瀬田玉川神社は二子玉川に残された貴重な自然と歴史の記憶を静かに伝え続けています。
INFORMATION

瀬田玉川神社
東京都世田谷区瀬田4-11-31
03-3700-3829
https://www.tamagawajinja.jp/index.html
