今やJR大崎駅西口のランドマークとなった「Think Park」がオープンしたのは2007年のこと。
大崎駅西口の印象をガラリと変えた高層ビルは開業当時、「大崎の街のあたたかみが失せてしまうかも」と懸念する声が聞こえてきましたが、それは杞憂に終わり、驚くほど緑が多く、訪れる人々を包み込むような空間が整備されています。
実はThink Parkのほど近くにも、緑がこんもりと盛り上がっている場所があるのをご存じでしょうか。
石段を一歩一歩踏みしめる度に心落ち着く空気がみなぎる「居木(いるぎ)神社」です。
古くから大崎の鎮守さまとして地域の人々に親しまれてきた緑豊かな神社は、その歴史の深さを感じさせる厳かな雰囲気がたなびき、境内では手入れの行き届いた木々が四季折々の表情を見せてくれます。訪れた時は季節の情緒を伝えるかのように、色鮮やかな鯉のぼりが勢いよく泳いでいました。


境内の一角には鮮やかな朱色の鳥居が目を引く「厳島神社」も祀られています。これは居木神社の末社にあたり、もともとは旧居木橋村の名主・松原家の屋敷神として代々大切に祀られてきたもの。
また、隣接して「稲荷神社」と道の守り神として知られる「道祖神」も祀られています。これらの神々の社からは、地域の人々の暮らしや旅の安全を古くより見守ってきたことがうかがえます。


伝承によれば、居木神社はもともと、JR大崎駅東口に近い「居木橋」のたもとに創建。しかし、江戸時代の初期に目黒川のたび重なる氾濫を避けるため、現在の高台へと遷座されました。
神社の社名はこの居木橋が由来。こんな話が伝わっています。
かつて、神社の境内脇には「ゆるぎの松」と呼ばれる1本の松の木が立っていました。多摩方面から長い旅をしてきた旅人はこの松が見えると「品川宿も近いぞ」と、もうひと頑張りしたとか。旅人に活力を与えたこの「ゆるぎの松」は時を経て「いるぎの松」と呼ばれるようになりました。それが橋の名前、そして社名になったそう。


山手通りにかかる居木橋は、かつてはこの地域の生活に深く根差したシンボルであり、その名は明治時代の地図にも記されています。橋のたもとに神社が鎮座していたということは、いかに居木橋がこの地の中心であり、人々の暮らしに欠かせない存在だったかを物語っています。

水害という自然の脅威から逃れ、現在の高台に移った居木神社ですが、この地は古くから人々が生活を営んできた痕跡を留めています。実際に、居木神社の高台からは貝塚や竪穴式住居が発見されており、遠い昔からこの地が人々の暮らしを支えてきたことがわかります。

さらに、境内脇には信仰の象徴として築かれた富士塚もあります。これはミニチュアの富士山で、かつて富士山信仰が盛んだったことを表しています。そんな背景もあるのか、境内にいると参拝者がひっきりなしに訪れる様子に目にすることができます。それぞれの人が、それぞれの想いとともに静かに神様と向き合う、美しい光景…。

そんな居木神社のすぐ近くには、どこか郷愁を誘う雰囲気の「ニュー大崎店舗街」があります。
レトロなマンションの1階と2階を占め、きっと誕生した頃はビルのなかにある最先端の商店街として、注目を集めたことでしょう。

現在は居酒屋やイタリアン、お昼時にはお弁当も扱うベーカリー、アパレル企業などが入居していますが、閉まったままのシャッターも目立ち、否が応でも時の流れを感じさせます。
.jpg)

まるでタイムスリップしたかのように、なかに足を踏み入れることが“探検”にも思えるニュー大崎店舗街。
そこから道路を隔ててそびえ立つのが、前述したThinkParkです。一見、無機的にも見えるThink Parkと、どことなく人間味あふれるニュー大崎店舗街。居木神社のふもとにあるこの鮮やかな対比こそが、進化を続ける大崎という街の面白さを際立たせているよう。


異世界に迷い込んだようなニュー大崎店舗街を出て、道路を渡り、ThinkParkのレストラン街に足を運ぶと、その思いは一層強くなります。
高層オフィスビルならではの光景が広がるThinkParkのレストラン街では、お昼時には店頭でお弁当を販売するレストランが目立ち、人々の活気に満ちています。

ビル1階の「COMPHO with TERRACE 大崎シンクパーク店」はガラス張りの開放的なテラス席を備えたベトナム料理店。テラス席からはニュー大崎店舗街のあるレトロなマンションを眺めることができ、まさに昭和と令和が同時に存在する、不思議な対比を観察できます。加えて、香草やスパイスが効いたアジアンな料理を口に運ぶと、時空を超え、異文化が重なりあったかのような混沌とした空間に。ランチタイムをここで過ごすと何か発見がありそうです。

かつて水害を避けてこの地に移ってきた居木神社は新旧が入り混じる大崎の街を高台から見守ってきました。
令和の今、空を貫きそうな高層ビルがいくつも建設されている大崎で、居木神社とその鎮守の森は変わることのない安らぎの空間として存在しています。

それは人々の心のよりどころであり、故郷のような場所。
これからも居木神社は大崎に暮らす人々に寄り添い、佇み続けることでしょう。
INFORMATION

居木神社
東京都品川区大崎3丁目8−20
03-3491-7490
https://irugijinjya.jp