目黒駅から歩くこと約6分。
以前ご紹介した「瑞聖寺」へ向かう道すがら、ふと足を止めたくなるような小さなお店を発見しました。

「Pedibus Jambus(ペディビュス ジャンビュス)」。
まるで恋のおまじないのような響きを店名にもつお店の扉を開けば、香ばしい匂いがそっと鼻先をくすぐります。そこに広がるのは、ぬくもりに包まれた心地よいざわめき。

お店の向かい側には目黒通りを挟んで東京都庭園美術館への入り口が見える

お店の中をじっくり見渡すと、そこはヨーロッパの小さなアンティークカフェに迷い込んだかのよう。木のあたたかみを感じさせる天井とタイルがアクセントとなったシンプルな白壁、棚にはアートや絵本がさりげなく並び、視界に彩りを添えます。また、ヴィンテージ感漂うテーブルや椅子も異国の市場で見つけた掘り出しもののような味わい深さ。

扉を開けた瞬間に漂った香りの正体は、店の看板メニューであるチーズパン。
店内を見渡せば、どのテーブルにもふっくらと黄金色に焼かれたパンが、まるで森の古木を思わせる鍋敷きの上に誇らしげに乗っています。

切り株を利用した鍋敷きもお店のセンスを物語る

このパンとともに多くの人がオーダーするのが、もう1つの看板メニューであるスープ。
その内容は日によって異なり、この日は さつまいも、かぼちゃ、ネギ、栗 の4種が用意されていました。どれも自然の恩恵を余すことなく使われているものばかり。
1人でお店を切り盛りする女性店主がその日のスープを告げると、皆、心惹かれる一皿を注文します。

この日いただいたのは、ネギのスープとチーズパン(1,400円)。
まずは、菜の花が鮮やかに彩るスープをひとさじ。口に運ぶと、その濃密なとろみに驚きました。

なにせ、普段飲むさらりとしたスープとは異なり、ポタージュをさらに濃くしたようなリッチさ。口の中がゆっくりと満たされていきます。浮かんでいる白いかたまりはフロマージュブラン。優しい酸味とクリーミーなコクが、スープの味わいに奥ゆきを加え、ひと口を新たな喜びに変えてくれます。

滋味あふれるネギのスープ。一度味わえば、他のスープもいただきたくなる引力を感じる

この濃厚なスープに寄り添うのが、焼きたてのチーズパン。
指で持ち上げると、チーズがとろりと流れ出し、蜘蛛のように糸を引きます。このビジュアルだけでも心トキめくのに、かじると押し寄せるのはさらなる幸福感。カリッと香ばしいパンと濃厚なチーズが渾然一体となり、シンプルでありながら贅沢な味わいが広がります。

アツアツのスキレットで提供されるチーズパン(写真は2人分)はスープの良き相棒
こちらはパープルがかった薄茶色が美しい栗のスープ。ほの甘い旨みが沁みわたる

なお、ここではサンドイッチやキッシュ、煮込み料理などの魅力的なメニューも楽しめます。
この日、提供されていた「仔羊のトマト煮込み」(1,800円)はゴロリと大きくカットされた羊肉がトマトの風味をまとったスープでじっくり煮込まれ、これまた大ぶりなじゃがいもや人参がその旨みを存分に吸い込んでいました。
ワンプレートにはほろりとした食感のクスクスが添えられ、ひと皿で満足感に包まれる一品でした。

野菜もたっぷりとれる仔羊の煮込みにはサラダとパンが付く

テーブル席で注文を取り、奥まった厨房で立ち働く店主の姿を見ていると、その無駄のない美しい所作に思わず見とれてしまいます。鍋のスープをよそい、パンをグリルにすべらせ、テーブルに運ぶ姿は凛とした佇まい。

それはきっと、彼女が大切にしている言葉と関係あるのかもしれません。
「Pedibus Jambus」(せっせと歩いて行こう、いつかは辿り着くから)。
お店の名は彼女が南仏プロヴァンスで暮らしていた頃、お世話になった人の口癖だったそう。

美味しいものを食べることは幸せの積み重ね。
そんな時間を過ごしたくなったら、またお店の扉を開けることにしましょう。

information

Pedibus Jambus
東京都港区白金台3-18-5
https://www.instagram.com/pedibusjambus/