中目黒駅から目黒・大鳥神社方面へ徒歩約8分。
交通量の多い平坦な山手通りを1本入ると、四叉路と坂道に囲まれた複雑な地形に遭遇します。
顔役は堂々と大きな幹と枝葉を繁らせる楠と石造りの鳥居。
よく見ると楠のたくましい根が境内の地面や敷石を押し上げ、その猛々しい生命力に圧倒されます。

その楠が目印となる「中目黒八幡神社」は中目黒駅前の喧騒から少し外れた静かな場所に佇む、心安らぐ神社。
鳥居をくぐると、参道脇には「神泉」と呼ばれる自然水(井戸水)が水鉢に流れ、ペットボトル持参で水を汲みにくる人の姿がありました。
この水は大正時代に境内を拡大した際、水が湧き出たことから現在の場所に引いたもの。
昔から地元の人々にとってご神徳を高める存在で、これまで一度も涸れたことがないとか。神泉からあふれ出た水は石段の下にある池へと流れる仕組みになっています。

四叉路に面した鳥居をくぐり、坂道と石段を上へ上へ。歩を進める度、この神社が斜面地に建造されていることを改めて実感させられます。
中目黒八幡神社の創建年は明らかではありませんが、寛文年間(1660年代)に創建されたのではないかという説があります。現在の社殿は1936(昭和11)年に竣工されました。

神社の御祭神は、八幡大神(誉田別命) と 天照大神。
とくに八幡大神は武運や勝利の神として広く崇敬され、源氏の守護神としても知られています。
戦の神を祀る神社では、いにしえの人々がさまざまな分野での勝利を祈願したことでしょう。

また、境内にはニホンオオカミを神の遣いとして崇める「三峯神社」が鎮座しています。
こちらの境内社は奥秩父にある総本山から勧請されたもの。実はニホンオオカミを信仰する三峯講(みつみねこう)が中目黒にも存在することから、境内に祀られることになったそう。小さなお社には2体のニホンオオカミを描いた額が掲げられています。


毎日8リットルの水を汲みに来るという80代の男性は、昔を懐かしむようにこう語ります。
「昔はこの八幡さんの一帯は外国人の住宅でした。今よりも外国人の方が多く暮らしていたかもしれませんね」。

調べてみると、現在の「防衛省目黒地区」には、かつて日本の軍事施設が集まっていました。
1857(安政4)年に 徳川幕府が砲薬製造所を建設したことを皮切りに、明治時代には目黒火薬製造所と海軍火薬製造所が。1930(昭和5)年には 海軍技術研究所が築地から移転し、大和(戦艦)の模型テストが行われる大型水槽や円形の池が設置されました。そして終戦後にはイギリス連邦占領軍の駐屯地 「エビスキャンプ」 が1956(昭和31)年まで置かれていました。
こうした歴史を考えると、当時エビスキャンプで働いていた外国人たちが中目黒八幡神社周辺に住んでいたのも不思議ではありません。また、八幡神社からほど近い目黒区役所のある場所には1927(昭和2)年から1963(昭和38)年までアメリカンスクールが存在していました。地域に馴染んでいる神社の風景からは想像しがたいですが、この周辺は国際色豊かな歴史が刻まれているのです。


中目黒八幡神社を後に向かったのは「Onigily Cafe (オニギリーカフェ)」。
神社で手を合わせた後にいただくおにぎりには、特別な意味があります。
お米は「八十八の手間をかけて実る」とされ、日本人にとって古くから神聖な食べもの。お米をぎゅっと握ることで、人のぬくもりが加わると同時に祈りがこめられます。
また、「結び」「握り」はご縁をつなぐ力。おにぎりを食すことは神さまとのご縁をより深める行為といえます。

山手通り沿いにあるお店のショーケースには14種のおにぎりが並び、11時30分までは好きなおにぎりを2つ選べる「おにぎり朝食セット」(600円)がオーダー可能。 神社に参拝した後、お味噌汁(110円)と一緒にいただくと、心もからだも満たされ、気力が湧いてくるようです。
中目黒八幡神社に限らず、神社を参拝した後にいただくおにぎりは神と自然、人とのつながりを再確認する特別な食の時間。一口頬張れば、大地のエネルギーが体内に巡り、元気と笑顔が生まれます。これぞ、日本のソウルフードの真髄! 神社参拝とともに、この習慣を取り入れてみるのも良さそうです。

INFORMATION

中目黒八幡神社
東京都目黒区中目黒3-10-5
03-3712-5507
https://www.facebook.com/nakameguro.hachimanjinja/
Onigily Cafe
東京都目黒区中目黒3-1-4
03-5708-5342
http://onigily.com/onigily-cafe/