東京都内の多くの大学では毎年10月〜11月にかけて学園祭が開催されます。
東京・城南地区でひときわ幅広い年齢層の人で賑わう学園祭が、東京農業大学世田谷キャンパスの「収穫祭」。2024年は11月1日〜3日に開催されました。

収穫祭は自然と共に生き、自然から学ぶ農大生たちの勉学の結晶を披露する場。
毎年、農大生たちが栽培した青果物をはじめ、農大製の味噌やハチミツ、肉の加工食品などが手頃な価格で販売されることもあり、地元はもとより遠方からも多くの来場者が訪れます。テレビ番組で取り上げられることもあり、訪れた日もロケの現場に遭遇しました。

OBや学生と関係のある農家からの出品もあり、お客さんが引きも切らない

11月1日、世田谷通りに面した正門に近づくと、スマホを手にした人たちがたくさん。
被写体は収穫祭限定の装飾が施された正門です。このダイナミックな飾り付けは毎年、造園科学科が手がけるのが農大の伝統。秋の美しい植栽と小規模ながらも迫力ある滝が訪れた人々の心をつかみ、イチョウの木々を囲むように配置されたベンチが訪れる人へのあたたかな気遣いを感じさせてくれました。

学祭はどこも賑わうものだが、他大学と違うのは何と言っても客層の豊かさ。老若男女あらゆるお客さんが学祭を楽しんでいる

キャンパスの風格ある木々はまるで時の流れを静かに見守ってきたかのような佇まい。空に向かって壮大に広がる深緑色に染まった枝葉をしっかり支える力強い幹が、創立133年の歴史を伝えます。

■学生たちの情熱のたまもの「即売会」

収穫祭名物の味噌をはじめ、農大名物学生たちが丹精込めて育てた新鮮な野菜やハチミツ、多肉植物や野菜の苗、抹茶商品などが並ぶ「即売会」では農大生たちが競うように自分たちの扱う製品をアピール。挑戦することを恐れない若いエネルギーがそこここに満ちています。

入手困難な逸品として知られるのが、醸造科学科の学生たちが厳選された原料を用い、発酵のメカニズムを学びながら仕込んだ「農大味噌」。今年は購入するために整理券が配布されましたが、昨年までは開門前に長い行列ができていたほど。ちなみに、初日のお昼前にはすでに整理券の配布は終了していました。

即売会のブースで一番たくさんの行列を作っていたのは農芸化学科の学生が製造したベーコンを扱うブース。食肉製品や植物研の先生が関わっている鉄栄養強化米も、併せて販売していました。

「緑の家」は町田市の畑で野菜作りを行うサークル。
無農薬・無科学肥料、土を良くするための堆肥は馬糞から、と栽培にこだわった約50種の野菜が並びます。ルッコラやベビーリーフは味が濃く、農大生たちが畑で心をこめて作っている様子が目に浮かぶよう。ポップでカラフルな看板も個性的で目立っていました。

■収穫祭ならではのフードメニューを楽しむ「模擬店」

学生の情熱がつまった活気あふれる「模擬店」では、農業大学らしく「分子微生物学科」や「食農教育研究室」などが開発したメニューもあり、訪れる人たちに豊かな食体験を提供。 

「もつ煮」や「唐揚げ」「フランクフルト」「シャカシャカポテト」などの模擬店がひしめくエリアで、真っ先に心を奪われたのが「国際食農科学科」が焼き立てを提供する「お煎餅」(100円)でした。味付けも醤油や七味唐辛子のようなスタンダードなものからコンポタ、明太マヨのような変わり種まで全8種。焦げ目も美味しいアツアツのお煎餅はお米の旨みがぎっしり詰まっていました。

お煎餅の屋台。裏でずっと調理している為、焼きたての温かいお煎餅を味わえる
七味唐辛子がこんなにたっぷり!めったに食すことのない焼き立てのお煎餅は格別の味

こちらは「経営管理研究室矢尾農場ベンチャー事業部」の模擬店で販売されていた2種のコロッケ。左が白とうもろこしを使ったもの、右が北海道にある矢尾農場のじゃがいも(男爵)(各200円)。どちらも期待を大きく上回る美味しさでした。

「食欲の秋」を湯気と豊かな香りで盛り上げていたのが「バレーボール同好会ももんじゃ」の「鶏団子鍋」(300円)。「収穫祭といえば鶏団子鍋です!」と高らかな呼び込みの声が功を奏し、たくさんの人が買い求めていました。バックヤードでは皆さんが一生懸命に大量の野菜と鶏団子を寸胴鍋で煮込む姿も。鶏の旨みがスープに沁み出てやさしいお味でした。 

何度も試作を重ねて完成したという鶏団子鍋。想像以上に野菜がたっぷり!

菌を振りかけたポテト!?そんな不思議な食べ物にも出会いました。「分子微生物学科」による農大製乳酸菌の粉末が振りかけられた「シャカシャカポテト」(300円)です。6種の味付けからピンクソルト味を選んでみましたが、菌の風味!?を感じることなく、少し甘みを含んだ塩味のポテトを美味しくいただきました。 

農大乳酸菌に惹かれて購入。買い求める列に並んでいるとあっという間に多くの人が後ろへ続いた
キャンパスには模擬店で購入したフードをゆっくり楽しめるベンチも用意されている

ブースの前で声を張り上げて「オリジナルレシピで作っています!」と、お客を呼び込む女子学生の姿にパッションを感じたのは「食農教育研究会」による「ハモバーグ」(400円)。これは小豆島の名産である鱧をすり身にし、こんがり焼いたもの。つなぎには米粉が使われています。初めて食したハモバーグはふんわりとした食感。バンズに挟み、バーガーにするのも良さそうです。 

オリジナリティを感じるハモバーグは最終日にはソールドアウト

〆にはコーヒーと甘いもので。ということで見つけたのは「農友会海外移住研究部」によるブラジルのコーヒーとお菓子。

ピーナッツのイラストが描かれている「パソキッタ」はブラジルの国民的お菓子

1926年に「植民研究会」として発足した同部はOBがブラジルに移住していることから、この国にご縁が生まれ、ブラジル産の豆で淹れた「コーヒー」(300円)とピーナツバターを固めたような現地のお菓子「パソキッタ」(100円)を販売。苦味と酸味のバランスがちょうど良い味わいのコーヒーでリフレッシュしました。 

農産物を生かしたお菓子から本格的なご飯ものまで、どの屋台も老若男女で賑わっていた

研究室やサークル、学生団体の発表の場「文化学術展」 

管弦楽をはじめ、書道、大道芸、海外での農業実習、アクセサリーや雑貨、インテリアグリーン、寄席、写真、野鳥、環境にやさしいコンクリート、手話、茶道、アメリカ民謡、軽音楽、ジャズ、ダンスなど…。バリエーション豊かなテーマを発表する文化学術展の会場はキャンパス内の教室。今回は「庭道部」の発表に訪れました。 

農大庭道部は日本庭園の設計や手入れを通して、伝統的な造園技術を文化を学ぶサークル。会場がある建物に足を踏み入れると土っぽい匂いが広がり、一体どこから?と思いましたが、庭道部の教室いっぱいに作られた東屋のある日本庭園を見て、納得。夥しい数の藁や秋の草花、木々が匂いの源でした。自然への敬意を造園技術で表現する庭道部の活動は農業の精神と密接に結びついているようです。 

室内には何と滝も!水音が心地良い

残念ながら、お目にかかる機会はありませんでしたが、「青山ほとり(大根踊り)」は収穫祭でも披露される伝統的な演舞。白い大根を手にした応援団の学生たちが軽快に踊る姿は、収穫への喜びと感謝を体現し、お祭りムードをさらに盛り上げます。収穫祭でも大根をデザインした半被を着用する団体もあり、農大と大根との強い絆を感じさせてくれました。 

農大といえば大根!パッケージの中には農大もなかなど、オリジナルの3種のお菓子が詰まっている

世田谷に秋を呼び込む、東京農業大学の収穫祭。
農大生たちの手によって育てられた収穫物とその背景にある物語が、訪れる人々の心をあたたかく包み込んでいました。

INFORMATION

東京農業大学世田谷キャンパス
東京都世田谷区桜丘1-1-1
https://www.nodai.ac.jp