土地の起伏に富む東京では、その土地柄をいかした庭園や公園が多くあるように思います。

目白台台地の自然を池泉回遊式の庭に整備した「肥後細川庭園」もその1つ。南北朝時代から椿が自生していた台地を山に見立て、遊歩道の一部は飛び石や踏み分石に。そして、小ぶりながらも滝もあり、遣水(やりみず)で台地の湧水を池に送っています。

また、庭園を見守るように広がる緑深い林には東京都絶滅危惧種のニホンカナヘビやニホントカゲなど、希少な生き物が生息しています。初夏になると林の切り株にキノコが顔をのぞかせたり、シロサギやヤマガラ、カワウといった鳥たちも姿を見せてくれることも。その様子からこの地が多様性に富んでいることがわかります。

手入れの行き届いた庭園は結婚式の前撮りの場所として利用されることもしばしば。この日も和装姿の2組のカップルがカメラマンの指示にあわせて、はnにかみながらもポーズを決めていました。

この庭園と和敬塾(首都圏の大学・大学院に通う男子学生のための寮)、永青文庫(細川家の美術館。創設当時は細川家の事務所だった)のある敷地は幕末、肥後54万石藩主細川候の江戸下屋敷・抱屋敷で、1882(明治15)年に細川家の邸宅となりました。第79代内閣総理大臣の細川護熙氏も幼少期にこの庭園の池で舟遊びを楽しんだとか。

庭園正門からすぐの場所にあるレトロな2階建の建物は「松聲閣(しょうせいかく)」。かつては細川家の学問所であり、一時期は細川家の住まいとして使われていました。現在は庭園同様に文京区が管理し、一般に公開されています。事前に申し込むことで集会室(洋室、和室)が利用できるほか、展望室や喫茶室なども用意されています。どの部屋には花の名前が付けられていますが、これは細川家が家臣の精神修養として栽培を奨励した「肥後六花」(肥後山茶花、肥後椿、肥後菊、肥後花菖蒲、肥後朝顔、肥後芍薬の6種)から。

その1つ、喫茶室「椿」では美しい庭園を借景に、点てた抹茶を楽しむことができます。添えられるお菓子は「加勢以多(かせいた)」。これは細川家が参勤交代の折に将軍に献上していたもので、そのルーツはポルトガルのお菓子「カイシャ・ダ・マルメラーダ(ポルトガル語で「マルメロジャムの箱」という意味)。このお菓子を好んだ細川藩主が作らせたものを復元したのが加勢以多というわけです。米粉を使った薄い生地にマルメロ羹を挟んだ上品な加勢以多ですが、東京で入手できるのは松聲閣だけなので味わいが気に入ったら求めるのもよいでしょう。

松聲閣で出会った東京在住30数年のフランス人女性は流暢な日本語で肥後細川庭園について語ってくれました。

「初めて日本に来た時から目白に暮らしています。自然とふれあいたい時はよくこのお庭に来ますよ。今日は庭の小川でザリガニを見つけました。すぐ石に隠れるから、なかなか写真を撮らせてくれなかったけどね(笑)。夏はよくトンボが飛んでいますよ。ここはのんびりできる、いいところです」

小さな山のような林、池をほとりに配された風雅な雪見灯篭や肥後花菖蒲、天を仰ぐと遮るものがない一面の空。細川家ゆかりの庭園は和の情緒にふれたい時、感性をアップデートしたい時に訪れたい場所です。

Information

肥後細川庭園

東京都文京区目白台1-1-22

TEL 03-3941-2010

https://www.higo-hosokawa.jp