京王線・幡ヶ谷駅から歩くこと数分。
商店街「ニシハラストリート」沿いに、あるお店がひっそりと佇んでいます。木製の扉と店内がほんの少しだけ見えるガラス窓、扉の脇には控えめな看板が掲げられています。

せり出した2階部分には理容室を思わせるサインポールも。かつての顔にも興味がわく
お店は幡ヶ谷駅から続く西原商店街のアーチをくぐった先にある

外観を見た人から「あそこ、ちょっと気になるんだよね」と話題になりそうな存在感を放つ、このお店の名前は「kasiki」。
これまでありそうでなかった、自家製アイスクリームとワインのペアリングを楽しめるお店です。

静かな通りには13時の開店を待つ人もあり、足を踏み入れたらどんな体験が待っているのだろう?と、期待が高まります。

オーダーは1階のカウンターで。
会計はキャッシュレスのみと思いきや、現金もOK(ちょっとホッとしました)。
本マガジンでうかがうお店のなかにはタッチ決済を求められるお店も多く、もしかしてこちらも⁉︎と、少々身構えていたのです。

落ち着いたトーンで揃えられた店内1階は、アイス屋さんというよりバーのよう

アイスクリームは1種類(600円)、2種類(850円)、3種類(1,000円)から選べます。
ただ、このお店が一風変わっているのはアイスクリームの気配がほとんど感じられないこと。というのも、以前紹介した祐天寺のジェラテリア「アクオリーナ」のように、ショーケースにずらりとフレーバーが並んでいるわけではありません。ひっそりとカウンターの奥に目立たないようにケースが置かれています。

オーダーする時はアイスクリームの名前が記されたシンプルなメニューから選ぶことになります。つまり、アイスクリームを見た目で選ぶのではなく“言葉で選ぶ”というわけです。
それは詩の意味を自分の心のなかに探す作業にも似ています。
たとえば「ルバーブ山椒」「ブルーベリーカルダモン」——。メニューに並ぶ名前より想像を巡らせる瞬間から、特別なアイスクリーム体験が始まっています。

ワインのペアリングを楽しみたい場合は、選んだアイスクリームを伝えるとスタッフの方が合うワインを提案してくれます(※ワインは合わせるフレーバーやその日のラインナップによって異なり、グラスの価格も銘柄ごとに変わります)。もちろんワインが苦手な方にはビールも用意されているし、コーヒー、紅茶、自家製梅ソーダといったソフトドリンクもオーダー可能。

ドリンクを手に2階へ上がると、1階とはまた異なる世界観が広がっています。
もとは民家だった建物をそのままワンフロアに開いた空間には磨りガラスの窓、飴色に灯る電球、木の温もりを残したテーブルと椅子。昭和という時代の質感が、そこかしこに息づいています。新しいのに懐かしい…そんな心地のよい室内です。

スタイリッシュな1階とは異なり、どこかほっとする空気が漂う2階。お水はセルフサービス

窓際の席でいただいた、こちらは「ルバーブ山椒」「塩バニラオリーブオイル」の2種。
合わせたのはフランスの醸造家「ノーコントロール」による赤ワインです。
「ルバーブの酸味と山椒のピリッとした余韻が赤ワインの果実味と溶け合い、アイスの輪郭を際立たせています」と話すのは、本企画を提案し、撮影を担当したM嬢。
そしてオリーブオイルがほのかに香る、塩バニラのシャリシャリとした食感を伴う甘じょっぱいアイスクリームは、まるで上質なおつまみを口にしているようでした。

下側のピンク色のアイスが「ルバーブ山椒」、その上の白いアイスが「塩バニラオリーブオイル」。インパクトのある名前だが、アイスの色はナチュラル

昭和の空気感がたなびく2階には次々にワイングラスを傾けながらデザート系のアイスを味わう女性たちが訪れます。中には何度も来店していると思しき常連客も。ちなみに、お店ではアイスクリームのみならず、グラニテやコンポートを加えたグラスデザートも用意されています。

2階の窓際の席では街の喧騒から少し距離を置いた商店街を往来する人の姿が望める

こちらは「ブルーベリーカルダモン」「河内晩柑ラムレーズン」と自家製梅ソーダ(700円)。
重みのあるスプーンでブルーベリーとカルダモンという異色の組み合わせを口に運ぶと、2つの香りと風味が同じボリュームで感じられ、濃厚かつ爽やか!皮ごと入った河内晩柑のほろ苦さとラムレーズンが作り出すこっくりとした甘さも存在感があり、炭酸の効いた梅ソーダの酸味がその余韻をすっと受け止めてくれるよう。嬉しいのは梅ソーダもワイングラスで提供されること。これはノンアルコール派にとって魅力的な存在です。ひと口ごとに異なる表情を見せるアイスと梅ソーダはまるで味覚のキャッチボールのようなペアリングでした。

上の紫色のアイスが「ブルーベリーカルダモン」、下の白っぽいアイスが「河内晩柑ラムレーズン」

さて、詩的なアイスクリームとノスタルジックな趣が漂う2階の空間に別れを告げる際、一抹の寂しさを覚えながら階段を下りると…1階の壁際に設けられた座席には所狭しと女性客で埋め尽くされていました。

アイスクリームとワインの組み合わせが、これほど多くの人を惹きつけているとは!
昼下がりなのに、誰もがアイスクリームとワインで思い思いの時間を過ごす光景を目にして、この店の魅力が単なる目新しさではなく、「日常の贅沢」として受け入れられていることを思いました。
もし夕暮れ、あるいは食後にバーとして立ち寄るなら、アイスクリームを肴に1杯いかがでしょう。

INFORMATION

kasiki
東京都渋谷区西原1-13-2
https://www.instagram.com/kasiki