6月初旬の午後、東急池上線「千鳥町」駅から歩いてすぐのビルの2階へ。
入口で履物を脱ぎ、室内へ足を踏み入れた瞬間、そこには日常にはない世界が広がっていました。

「THE LIVING」。
オレンジがかった壁を背にアジアの仏像、存在感のある絵画。そして、それらに包まれるように配置されたラグジュアリーなソファが6席。照明はやわらかく落とされ、空間にはクラシック音楽が静かに流れています。

この空間に身を置きながら、過去に似たような場所を訪れた記憶がないか、頭のサーチエンジンで探ってみました。が、結果は「該当なし」。バーのようでもあり、カフェのようでもある…けれど、そのどちらとも少し違うような。とにかく、この空間をカテゴライズするのは容易ではありません。ただ、言えるのは時間そのものを味わいたくなる上質な空間が作られていること。

靴を脱いで足を踏み入れるとアジアの仏像や個性的な絵画が室内を彩る

THE LIVINGを訪れた目的は季節のフルーツをたっぷり使ったパフェ。
「たっぷり」と記しましたが、この表現では少し物足りないかもしれません。「惜しみなく」と言い換えてもよいほど、使われているフルーツのボリュームに目を奪われます。

ところで、6月は東南アジアのフルーツが旬を迎える季節。
日本でもマンゴーやマンゴスチン、ドリアンなどのトロピカルフルーツがスーパーや果物店の店頭に並び始めます。

マティーニグラスで提供されるパフェの層も美しく、ついつい見惚れてしまう

まず紹介したいのは、トロピカルフルーツを主役にした2種類のパフェです。
ひとつ目は、お店を代表するメニューでもある「パルフェエレガンス・マンゴー」。
普段はタイ産の「ナンドクマイ」を使用していますが、この日は、なめらかな舌ざわりと濃厚な甘みを持つマハチャイ種が登場。

中身はパイナップルジュースのゼリー、オレンジとアプリコットのカスタードクリーム、ヨーグルト生クリーム、キャラメルアイスなど

マティーニグラスの頂には、薔薇の花びらを紡ぐようにマンゴーが美しく配されています。その黄金色は南国の太陽をそのまま切り取ったかのようでもあるし、タイの街角ですれ違う僧侶が着用する僧衣を連想させます。

こちらを注文したS嬢の第一声は、「濃厚!」。
マハチャイ種ならではの深みのある甘さにイチゴやヨーグルトの爽やかな酸味が重なり、果肉の魅力を一層際立たせます。

もうひとつのトロピカルフルーツを使ったメニューが「パルフェエレガンス・ライチ」です。
主役は台湾産のフレッシュライチ。収穫から日持ちがしないため、日本で味わえる期間はごくわずかで、芳醇な香りと上品な甘みを携えています。
ライチと聞くと、ホテルのバイキングなどで見かける冷凍ライチを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、近年は台湾から空輸されるフレッシュライチの美味しさが注目を集めています。

瑞々しいライチの上にのっているのはライチのソルベ。店名入りのプレートもアクセントに

世界三大美女のひとりに数えられる、中国・唐の時代の皇妃・楊貴妃がこよなく愛したことでも知られるライチはビタミンCや葉酸、カリウムなどが豊富に含まれており、美貌を保つために楊貴妃が好んで食べていたとも伝えられています。傷みやすい生ライチを新鮮な状態で届けるため、南方の産地から時の都・長安まで早馬を次々と乗り継ぎながら運ばせたという逸話もあり、その美味しさは、皇帝が莫大な労力をかけてでも楊貴妃に食べさせたいものだったのでしょう。

ライチにはマンゴーのような華やかさとは対照的な静かな美しさを感じます。
ほのかな渋みの黒烏龍茶ゼリーやライチやパイナップルを使ったソルベが寄り添い、甘さだけでは終わらない余韻を生み出していました。

さて、マンゴーやライチといった海外のトロピカルフルーツだけでなく、日本で収穫された旬の果実もメニューに並びます。
それが、初夏のシーズナリーパフェとして登場する「パルフェエレガンス・枇杷」です。

古くから葉も実も薬用として親しまれてきた枇杷。お店では千葉県産の枇杷を主役に、美生柑とグレープフルーツのグラニテや枇杷の葉茶のジュレ、マスカルポーネチーズクリーム、白ワインのジュレ、枇杷のコンポートなどとともにいただきます。

こちらを選んだA嬢は「枇杷は驚くほど肉厚で、押してもなかなか切れないほど弾力がありました」。華やかなマンゴーや芳醇なライチとは異なり、枇杷にはどこか控えめで奥ゆかさを感じます。旬の短い、はかなさも。その風味は梅雨時の晴れ間に射し込むやわらかな陽射しや、夏の気配をはらんだ風を思わせてくれます。

別添えの小さなグラスに入った美生柑とグレープフルーツの追いグラニテを入れると酸味が加わり、果肉の風味が引き立つ

さて、東京・城南エリアにはパフェの名店が数多くあります。
本マガジンでかつて紹介した「ASAKO IWAYANAGI 」は、まるで現代アートのような構成力のあるパフェで知られています。
一方、「THE  LIVING」のパフェから感じたのは、華やかな演出や技巧ではなく、旬の果実そのものと向き合うような世界観。

パフェにはグラスの中身を紹介するカードが添えられる

マンゴー、ライチ、枇杷―。お店のパフェはそれぞれの果実が持つ香りや個性を丁寧に引き出しながら、空間や音楽、黒いプレートとマティーニグラスといった器も含めて、ひとつの美の世界を描いています。

information

THE LIVING
東京都大田区千鳥1-19-5 フラット千鳥2F
03-6410-9779
https://www.the-living.com