晩夏の夕暮れは、なぜこんなにも切ないのでしょう。
とくに暮れなずむお祭りのひとときを過ごすと、その思いはいっそう募ります。
マジックアワーに吹きはじめる、湿り気を含んだ涼やかな風が昼間の熱気に包まれた身体と心をやさしく冷ましてくれるその瞬間、胸の奥がツンと締めつけられるのかもしれません。


この時期、武蔵小山を高揚感で包み込む行事が「小山両社祭(こやまりょうじゃさい)」です。
遠方から足を運ぶ人も多いこのお祭りは毎年9月第1週目の土日に開催される小山八幡神社・三谷八幡神社の例大祭。今年で38回目を迎えました。両神社の氏子町会が有する七基の神輿がこの地に暮らす人々にとっては夏の締めくくりであり、秋の訪れを告げる風物詩となっています。

お祭りを迎えた街はどこからともなく、タコ焼きやイカ焼きの香ばしい匂いが漂い、遠くからは御囃子の音と威勢のよい掛け声が響き、道の両脇には色とりどりの提灯が揺れています。ポイを片手に持つ子どもたちが群をなす金魚すくいの水面はきらめき、昔ながらの毒々しい色味のかき氷の冷たさに大人も子どもも笑い声が弾けます。

2025年9月7日(日)、夕刻を迎える少し前。
三谷八幡神社の鳥居前には、御囃子車を従えて練り歩いてきた迫力満点の神輿が到着しました。神輿を守るのは肩に食い込む神輿の重みをものともせず、全身全霊で威勢よく声を張り上げる、ねじり鉢巻に町名が入った法被姿の担ぎ手たち。彼らの熱気で一瞬にして周囲の気温が上昇したかのようでした。

宮司による「修祓(しゅばつ)」が執り行われると、担ぎ手たちは一瞬静まり返り、神前に頭を垂れます。その姿は先ほどまでの喧騒とは対照的で、お祭りの神聖さを際立たせていました。清められた神輿は再び息を吹き返すように担ぎ上げられ、再度大きな掛け声とともに繰り出していきます。

両社祭の日は武蔵小山の飲食店も軒先に屋台を出し、通りはにぎやかな縁日のよう。焼き鳥の香ばしい匂いが漂い、冷や汁の涼やかな味わいが疲れを癒やします。ビール片手に笑い合う大人たちの横では鳥の唐揚げを頬張る子どもたちの姿もあり、街全体が一体となってこのお祭りを楽しんでいる様子があちこちで見られました。

日曜日の夕刻、お祭りの熱気はいよいよ最高潮を迎えます。
東京で最も長いアーケードを誇るパルム商店街は、神輿と御囃子車をひと目見ようと集まった人々であふれかえります。拍子木の音、太鼓の響き、掛け声、歓声が渾然一体となり、まるでこの通りがひとつの大舞台であるかのよう!


その後、七基の神輿とさっきまで肩に神輿を食い込ませ、大量の汗を滴らせながらも力強く揺さぶっていた担ぎ手たちは武蔵小山駅前のターミナルに集結。
駅前は一瞬にして祭り一色に染まる、圧感な光景。それが「出御式(しゅつぎょしき)」です。

出御式とは、両社祭の見せ場の1つであり、各町会の神輿が一堂に会し、宮司のお祓いを受けてから最終目的地の西小山駅へと繰り出すための晴れやかな式典。


関係者の挨拶後、宮司のお祓いとともに出御の合図が送られると、七基の神輿は再び大きく持ち上げられ、動きはじめました。
沿道にはもう少しでお祭りの終わりを迎える神輿と御囃子車の群れに歓声と拍手を惜しみなく送る人たちが数えきれないほど。高く掲げられた両神社の幟が揺れ、夜風が街に吹き抜けるたび、熱気と涼しさが交錯していました。

夜の帳が下りる頃、三谷八幡神社の神楽殿で行われていたのは奉納カラオケ。
参加者の歌声が夏の夜空に響き渡り、まるで天へと昇っていくようでした。
きっと、神さまもその歌声に耳を傾け、お祭りの熱気とともに人々の心を受け止めてくださったことでしょう。

武蔵小山の街が一丸となって築き上げる両社祭。そこには地元への愛と絶えることのない人々の情熱がありました。
