渋谷と原宿の間にある、山手線の線路に近い雑居ビル。1階を占めるのは宅急便の会社、2階の片隅にあるベランダに何気なくディスプレイされているのは世界の国々のフラッグ。「Binowa cafe(ビノワカフェ)」を外から見ただけだと「さりげない」という表現になってしまいますが、2階に上がる階段から別世界に突入します。
踊り場までの壁にはBinowa cafeがこれまで作った夥しい数の世界の郷土菓子の写真。2階まで続くのは世界の郷土菓子にフィーチャーした新聞…。東京にいながらにして、一体ここはどこの国?
店内も階段からの期待を裏切らないマニアックな世界観。主役は手作りされた世界の郷土菓子たちです。ショーケースに並んでいる生菓子も棚に陳列されている焼き菓子も見たことのないものばかり!
さて、このニッチでトキめく世界の郷土菓子を送り出しているのは店主の菓子職人、林周作さん。林さんは自転車で世界を旅し、50カ国500種類以上のお菓子を食べ歩き、時にはお店の厨房に入れてもらったり、知り合った人からレシピを教わったりして、現地の味を習得。まだ見ぬ(食さぬ)お菓子への好奇心、そして自転車の旅というタフさ(と健脚)が何カ国もの「世界の郷土菓子」に導いてくれたそうです。
お店で生菓子も焼き菓子も選ぶ基準は、これまで培ってきた自分のカン。ある意味、野生に還る瞬間です。郷土菓子の生まれはスウェーデン、フランス、スペイン、インド、アゼルバイジャンなどなど。並ぶ郷土菓子を擬人化したら「生まれも素材も異なるわたしたちが、異国の地(東京)で一緒に並んでますね」なーんて語り合っているのでは。
スウェーデン生まれの若草色のマジパンに包まれた「プリンセストルタ」(600円)は、軽いスポンジに生クリームとカスタードクリーム、酸味のあるラズベリージャムを挟んだもの。プリンセスという乙女な名前にキュンとくる人もいらっしゃるかも。
フランス北西部ナントの郷土菓子「ガトーナンテ」(600円)。見た感じは表面をアイシングされた焼き菓子ですが、一口食べたら…しっかり効いたラム酒にビックリ!アイシングにも生地にもラム酒がたっぷり使われているので、お酒が飲めない人は潔く他の郷土菓子のセレクトを。
旅先としてはマイナーかもしれない国、アゼルバイジャンからは餃子型の焼き菓子「シェチェルブラ」(450円)。ナイフとフォークでカットを試みるとストロングで、なかなか割れないツワモノです。チョコレートバージョンは季節限定で、タイ産カカオニブと粗糖を使用。食べ進むとチョコレートの味わいが濃厚です。
すでに知っているお菓子に会えると「再会」という楽しみが。これから旅したい国であれば「旅先案内人」になる郷土菓子。食べ終わった後はきっといざなわれます。次はどこの国を旅しよう!?と。
なお、世田谷区太子堂にはBinowa cafeのテイクアウト専門店「Journey」が2021年にオープン。こちらは生菓子がより充実しています。
さて毎年、3月6日は「世界一周記念日」。自由に渡航することが簡単ではない今、世界のお菓子で旅気分を!
Information
Binowa cafe ※2022年10月17日閉店
東京都渋谷区神宮前6-24-2 芳村ビル 2F
03-6450-5369