初夏の紫陽花が見事な「多摩川台公園」から東急東横線「多摩川」駅を挟んだ向かい側。
実はここにも早朝から心を豊かにさせる公園があるのをご存知でしょうか。
それが大田区立「田園調布せせらぎ公園」です。

駅スグの公園は、立川市から約30km続く国分寺崖線の南端に位置。
多摩川が10万年以上の歳月をかけて作り出した国分寺崖線(崖の連なり)は「緑の生命線」といわれ、木々や湧水など貴重な自然が残され、この公園にもそれが連綿と息づいています。

かつて、この公園は大正時代に開園した遊園地「多摩川園」や東急系のテニスクラブだった

園内に入ると、まずは建築家・隈研吾が設計を手がけた文化施設「田園調布せせらぎ館」へ。隈研吾らしさを感じる木のぬくもりを活かしたシンプルでモダンな建物は公園の豊かな自然に対面するデザインがなされ、いたるところに自然との共生を大切にした美学が表れています。

2024年にオープンした低層の「せせらぎ館」。東急東横線と並行した意匠を感じる
豊かな自然と向き合う「森の縁側」がコンセプト

芝生が一面に敷かれた広場に面した「fu-haku」は、朝の清々しいひとときを過ごす人たちの活気に満ちたカフェ。開放感を生む高い天井の下、訪れた人たちはやわからな朝陽を浴びながら思い思いの時間を過ごします。訪れた日、カフェの一角では外国人による英会話のレッスン風景も。

朝活にぴったりのこの空間では8時30分からモーニングが用意され、焼きたてのトースト(550円)やモッチリふわふわのフレンチトースト(700円)が提供されます。どの席からも公園の深い緑が目に映り、芝生広場で遊ぶ子どもたちの笑顔や散策道をウォーキングする人たちの姿を眺めながらの朝食は心が穏やかに満たされていくのを感じます。
店内にはベーカリーが併設され、お子さま連れの家族はここでパンを購入して、園内でピクニックのようなひとときを楽しむのも日常の風景。

モーニングは8時30分から11時まで。トーストプレートには野菜もたっぷり添えられる

ちなみに店名のfu-haku (布帛)とは、縦糸と横糸を交差して織った生地のこと。
昔から変わらない工程へのこだわりを大切にしながらも常に新しい考え方を取り入れ、かけ合わせていく、という願いが込められています。

さて、せせらぎ館はカフェのほか、休憩スペースをはじめ、大田区図書館の本の貸し出し、集会室、多目的室なども擁し、文化と憩いの場としての顔も持っています。

跳ね返りが心地よいソファは誰もが気軽に一息つけるし、大田区図書館と連携したサービスも魅力のひとつで、区内図書館の資料をここで予約・受取・返却することが可能です。また「せせらぎ文庫」では、館内で自由に読める本や雑誌、絵本が並び、子どもから大人まで楽しむことができます。

窓越しの緑を眺めながら休憩できるソファやテーブルがたくさん設けられている

ここでは誰かと談笑を楽しむ人、本の世界に没頭する人、あるいは窓越しに見える緑をぼんやり眺める人たちが集まり、それぞれのリズムで時を過ごします。散策の合間や日常のなかでホッと一息つける、安息の場。カフェ同様、朝から多くの人が訪れるこの施設が、すでに地域の人たちにとっての馴染みの場所になっていることを感じます。

従来の“密室”のような集会室のイメージを破り、ガラス張りの開放的な集会室が並ぶ(写真右側)

さて、季節の色彩に包まれる公園に一歩足を踏み入れると、多摩川駅付近の喧騒が徐々に遠ざかり、清らかな空気に包まれます。

東屋の脇に広がる湧水池の水面には鴨たちの姿があり、耳を澄ませば、木と木の間を行き交う鳥のさえずりに心が和みます。歩みを進めて少し小上がった場所に踏み込むと、晩秋を告げるイチョウの葉が地面を黄金色に染め、足元から立ち上るのはカサカサと鳴る心地よい葉音。色づいたイチョウの大木の向こうには東急東横線の電車が行き交う様子を眺めることもでき、思いがけずノスタルジックな気分に浸ることができます。

高低差のある小径の散策は歩く距離もほどよい

イチョウの大木を後に階段を上がると多目的広場が広がり、子どもたちの笑い声が風に乗って聞こえてきます。
その先の大山坂周辺では、美しく紅葉したイロハモミジが見頃を迎えていました。
視界を占めるのは、見る者の心まで染めてしまいそうな、秋の陽に輝く赤と橙。
その光景は自然が織りなす季節のキャンバスであり、多くの人たちの足を止めていました。

そして坂を下ると、せせらぎ館が左側に、水辺の景色が右側に広がります。
この散策道を一巡すると、心の深いところから“ほぐされる”ことを実感するでしょう。

どの時間帯も公園の魅力を充分楽しめますが、とくに朝は人もまだ少なく、静かな時間に浸ることができます。
また、園内には2024年11月、体育施設もオープン。2階のトレーニングルームにはさまざまなマシンが並び、大田区民以外も利用可能(有料)です。

屋内スポーツに利用できる体育施設の入り口にはボルダリングスペースも用意されている

ゆったりと自分のペースでモーニングを楽しんだ後は、冬のピリッとした空気のなかで自然の息吹を感じながら歩いてみませんか。

information

田園調布せせらぎ公園
東京都大田区田園調布1-53-10
03-5483-2461
https://www.city.ota.tokyo.jp/shisetsu/park/denentyouhuseseragi.html