1年の始まりの日である「元旦」。

とくに早朝は天と地の間にあるもの全てが祓われたような清爽な空気を感じます。
すると自然に背筋がシャンと伸び、あるいは襟元が正され、この1年を幸せに過ごせますように…と手を合わせる所作が生まれます。誰かから教わったわけでもないのに儀式めいたことを自然に行うのは、きっと1年の始まりの日を特別なものと感じるから。

世田谷区上馬にある「東京茶寮」に足を踏み入れた瞬間、感じるのは元旦を想起させる清々しい空気。要らないものを削ぎ落としたコンテンポラリーな茶室ではコの字型にカウンターが渡され、淹れたての煎茶を堪能することができます。

漆喰仕上げの壁と国産無垢材を使ったコの字型カウンターが中央に配された店内
お店の母体はデザイン会社。東京茶寮の内装からプロダクト、冊子までを手がけている

煎茶のラインアップは全国から選りすぐった、シングルオリジン(同じ農園で作られた単一品種の茶葉)約30種。その中から月替りで8種類が提供されています。

このお店、8種の中から好みの茶葉を選ぶわけですが、その仕掛けがユニークなのです。
それを物語るのがカウンターに座ると目の前に置かれる「甘み」「渋味」「旨味」「香り」のチャート表。

自分の好みや気分で選んでもよいし、迷ったらスタッフの方に遠慮なく相談することも可能

この日は「煎茶1種+お茶菓子」(900円)をオーダー。
「甘みのあるお茶を」という希望を伝え、紹介いただいたのが、熊本産の「ASANOKA」。

煎茶は2種類選ぶことも可能

目の前でスタッフが淹れる煎茶は3煎。
蒸らし時間の1分20秒に設定された特注の砂時計で時間を測り、120mlを抽出していきます。

1煎目は70度とやや低めの温度で。
ワイングラスをイメージしたカップでいただくお茶は甘みの中に苦みを含んだ旨みが際立ちます。

2煎目は少し温度を上げて80度で淹れます。
羊羹とも相性がよく、より甘みを感じました。同じ茶葉でも異なる温度で淹れると味わいの奥深さが引き出されます。これが茶葉と湯温のマジックであり、煎茶の面白さ。カップは有田焼のもので提供されます。

お菓子は2種用意されている。この日は羊羹と米粉バターサンドが登場

そして最後の3煎目はなんと玄米が加えられ、玄米茶に。
煎茶の「味変」と言いましょうか、思いがけないこの仕掛けに感嘆! 高温で炒った熊本産の香ばしい玄米が加わると、ふくよかな味わいを感じます。

さて、こだわりの3煎を支える器具もこのお店を語るうえで切り離せないもの。
遠くから見るとハンドドリップコーヒーを淹れているかのようなオリジナルのドリッパーはこのお店のために開発されたもの。ドリッパーを持ち上げるとお茶が流れ落ちる設計となっています。

現在お店は週に1度の営業。コロナ禍の影響を受ける前は来日した外国人旅行客がしばしば訪れていたそう。
美しい所作で1煎1煎を丁寧に淹れるスタッフの方は「抹茶は外国でも知られていますが、煎茶についてはあまり知られていません。抹茶を入り口に、煎茶をはじめとする日本茶と文化をここから発信できたらと思います」と話します。

最後に蒸らした茶葉をスプーンで掬っていただくと、なんとも青さがほのかに漂う、滋味深い味わい。ツウは自ら選んだ茶葉を残さず食べて帰るのだそう。

お店で扱っている茶葉は姉妹店である銀座の「煎茶堂東京」やお店のオンラインストアで購入可能

清爽な空気を体内に甦らせたくなった時、あるいは無性に気分を変えたくなった時。
1煎ずつ丁寧に淹れられた煎茶とともに過ごしてみませんか。

information

東京茶寮
東京都世田谷区上馬1丁目34-15
TEL 03-6805-3071
https://www.tokyosaryo.jp