ピンクの髪、鼻・舌ピアスの男性が伝統技法を継承する華道家だったり。
いつも和服姿の淑やかな女性がボルタリングのチャンピオンという顔をもっていたり。

“ギャップ萌え”という言葉があるように、人は思いがけないこと…つまり意外性に惹きつけられます。
それは人だけでなく、場所にも当てはまるもの。2020年5月、港区北青山にお目見えした「ののあおやま 」もギャップ萌えするスポットかもしれません。

東京のなかでも流行発信の王道的存在感のある表参道を青山方面へ。青山通りを東京メトロ「外苑前」駅に向かう途中で左折すると突如として現れる「森」に驚きます。しかも森のほとりには小川が流れ、ビオトープやデッキも。ランチタイムをここで過ごす人も多く、きっと北青山という都会が包む豊かな自然に惹きつけられているのでしょう。

そんな自然の声が響く、深い緑に包まれた「ののあおやま 」の敷地は約3500平方メートル。ここが昔、1950~60年代に建てられた低層の都営団地「青山北町アパート」が点在していたことが信じられないほど団地の面影はなく、森と施設が隣り合う場が広がっています。

都営団地の老朽化による建て替え、創出した土地を活用する「北青山3丁目地区まちづくりプロジェクト」の開始が公表されたのは2014年。そして団地を高層化することから生まれる余剰地を使った民間活用事業が計画されました。結果、敷地(東京都より約70年間の定期借地によって借り受け)には25階建の賃貸マンションをはじめ、カフェやレストランなどの商業施設、保育所、サービス付き高齢者向け住宅、地域交流スポットなどに併せて、人々の安息の場として森も整備されました。

なお、この事業はSDGsの「住み続けられるまちづくりを」「パートナーシップで目標を達成しよう」という2つの目標を意識した取り組みでもあります。

建築家・隈研吾が外壁デザインを手がけた「ののあおやま民活棟」。1、2階には「森の商店街」をテーマにしたお店が出店

ののあおやまの森には常緑樹や落葉樹、花木が植えられ、気持ちのよい木陰を作っています。なかには防災機能のある公園でよく見かける常緑樹、シラカシも。この木は防火や防風の働きがあるので、古くから家屋を守るために生垣や防風林として植えられてきました。

遊歩道を歩いていると、靴へのはね返りから低クッション性の舗装材が使われていることがわかります。これは木質加熱アスファルト(ハーモニーロードウッド)という、廃木材や間伐材などを原料とした環境にやさしい舗装材。断熱性に優れているので地下に熱を蓄えにくく、ヒートアイランド対策に適しています。また、焼却処分する際に発生するCO2を抑制できるエコなメリットも。

さて、都心にある森空間に身を置いてあらためて感じるのは木々のはたらき。
木は酸素を作り出す働きがあるほか、密生していることで空気がゆっくりと暖まり、よりおだやかに冷えるというはたらきがあります。よって、極端に高かったり低かったりする温度や湿度の緩和につながります。
また木は動物や虫などが育つハウスのようなもの。かたち、大きさ、樹齢、茂り方などが生きる環境に影響するので、彼らが住みやすい木が増えれば豊かな生態系に貢献できるでしょう。そしてアスファルトの地面が多い都心に暮らす人間にとっては? 木々の緑と共生することで「心の森林浴」ができることでしょうか。

「のの」とは「日・月・神・仏など、尊ぶべきもの」を指す言葉。その上で、新たな魅力が生まれる場所に育つように、という願いが込められている

そんな自然とのつながりを考えさせてくれたののあおやまの豊かな森。その傍らにあり、森を守る番人のようなスポットが「ののあおやま民活棟」1階の「まちあいとおみせ」です。ののあおやまの成り立ちを紹介するブックレットを貸し出し、森で読むこともできるし、店舗はイベントスペースとしても機能します。訪れた日は参院選を呼びかける「Go To VOTE by vermilion」が開催されていました。

体験型環境学習をはじめ、音楽、映画、アートなどのイベントも開催

なお、ののあおやま民活棟には“森の商店街”をコンセプトとした「ののあおやまショップ&レストラン」が1、2階に出店しています。

カフェ「エリック・ローズ」もその1つ。スターバックス創業者のメンバーであるエリック・ローズ氏の名前を冠したこのお店はハワイに本店があり、日本初出店。ウッディで広い店内はエココンシャスでありながらもメロウな雰囲気を漂わせています。

「ののあおやま民活棟」1階に出店しているカフェ「エリック・ローズ」

壁のアートもスタイリッシュな店内にはバリスタも常駐し、こだわりのコーヒーのほか、ランチタイムにはボリューム満点でありながら、廃棄ロスがないよう考案されたメニューを楽しむこともできます。

BCT 1,740円
ヴィ―ガンサラダ 860円

さて、エリック・ローズのエントランス前にはこれから整備される都営団地の建物がフェンス越しに姿をのぞかせています。日本の高度経済成長時代のシンボルといえるこの団地はこれからオフィスや商業施設となる予定。併せて森も拡大されるそうです。その頃、この地はまた新たな緑の息遣いに満ちあふれるのでしょう。

かつては25棟586戸あった都営青山北町アパートは整備が進み、残すところ1ブロックのみ。将来は森と隣り合う施設が誕生する予定
information

ののあおやま
東京都港区北青山3-4-3
TEL03-6432-9966
https://nonoaoyama.com