猛暑の体調を表現する言葉「暍」。
訓読みで「あつさあたり」と読みます。

あつさ(暑さ)あたりは「暑気あたり」のことで、夏の暑さによって身体が衰え、倦怠感や疲労感、食欲不振を感じる状態。夏バテや夏負けとも言いますね。

そんな季節だからこそ、元気の維持・回復を意識した食事を楽しみたいもの。

今回は西郷隆盛が主君である薩摩藩主・島津斉彬の病気平癒を祈願したことでも知られる目黒不動こと「瀧泉寺(りゅうせんじ)」(目黒区下目黒)にほど近い立地にお店を構える、2店の夏の滋味を紹介します。

■ 夏の滋味その1 爽やかなすだちに開眼!涼を誘う酸っぱ旨いそうめん

スライスされたすだちが見た目にも涼やかなそうめん

目黒の急坂として知られる行人坂は古くから目黒不動への参詣道として親しまれています。坂の途中にある「ホテル雅叙園東京」は目黒のシンボリックな施設。自然光を気持ちよく採り入れたアトリウムにはラグジュアリーなレストランやカフェなどが点在しています。

ホテル雅叙園東京のエントランスを進むと見えてくるのが「招きの大門」。照明が落とされた回廊に佇むとまるで漆黒の海辺にいるかのよう。水が粛々と流れ、静謐な空気が漂う回廊はさっきまでの灼熱の太陽が照りつける行人坂を汗を拭いながら下ってきたことを瞬時に忘れさせてくれます。そんなクールダウン効果のある癒しの門を抜けるとそこは非日常の世界。ガラスの天窓まで高く吹き抜け、みずみずしいグリーンがいたるところに配された解放的な空間はホテル雅叙園東京の顔となっています。

竜宮城の入り口を思わせる「招きの大門」

大きな窓から勢いよく落ちる滝が見えるアトリウムの奥側。小さなせせらぎの向こうにある茅葺屋根の一軒家レストランが日本料理「渡風亭(とふうてい)」。和のしつらいを追求した8つの個室で旬の食材をふんだんに用いた会席料理を楽しむことができます。

茅葺屋根が目印の日本料理屋「渡風亭」

今夏限定のランチは「酢橘そうめんと天重」(平日のみ提供)。そうめんの上には「波紋」を思わせる輪切りの酢橘(すだち)がたっぷり。お椀に浮かぶ爽やかなイエローグリーンに涼を感じます。そのすだちを1枚、口に含むと清々しい酸味がキュッ! カツオでとった冷たい出し汁が絡んだそうめんの旨みを引き立ててくれます。レモンや柚子ともひと味違う少し青っぽさを感じるすだちの仕事に感服。

ところで、すだちの果汁・果皮に豊富に含まれている代表的な栄養成分はカリウムやビタミンC。なんと、レモンよりも豊富に含まれています。酸味の素であるクエン酸は疲労回復に期待できる成分で唾液や胃液の分泌を促し、食欲を増進させる効果もあるので、食欲が低下しやすい夏にはぜひ取り入れたいものです。

噛みしめるとカリッと音が鳴るほど、軽く仕上がった天ぷら数種がダイナミックにのった天重はそうめんのよき相方。なかでも、身がやわらかな江戸前の穴子は後述する鰻同様、食欲増進の起爆剤となるので夏にムショウに食べたくなる…という人もいらっしゃるのでは。

「酢橘そうめんと天重」3,300円(税込)8/31(水)までの平日限定ランチ(11:30-14:30) ※8/8(月)-8/15(月)は利用不可

シメの喉ごしのよい水ようかんがおなかにすべり落ちる頃はもう真夏の太陽のことなど、忘却の彼方。美しい個室でいただく夏の涼味を心ゆくまで楽しみ、暑さに負けない心身にととのえましょう。

■ 夏の滋味その2 「スタミナ食」の王者的存在感。夏はやっぱり鰻!

「ホテル雅叙園東京」のある行人坂から太鼓橋を渡り、直進すると山手通りに出ます。この通りと交差するように走っているのが「目黒通り」。夏に味わいたい2つ目の滋味はこの通りの交差点「元競馬場」近くにある鰻の名店「宮川」。ちなみに元競馬場の名前は昔、このあたりに目黒競馬場があったことに由来します。

目黒通りの元競馬場交差点近くにある老舗「鰻 宮川」

「鰻 宮川」は築地の「宮川本廛」の暖簾分けのお店。宮川本廛の初代・渡辺助之丞は深川のうなぎ専門店「宮川」で修業し、名跡を受け継いで1893(明治26)年に宮川本廛を創業した人物。都内には彼のポリシーを受け継ぐ「宮川の門下」というべき暖簾分けがのお店がいくつかあり、城南地区では学芸大学や代田、世田谷などにも店舗があります。

「土用の丑の日」以外でも食したくなる旨し鰻を提供する宮川は 創業80年以上、継ぎ足し継ぎ足し守ってきたタレと質のよい鰻が作り出す「うな重」を求めて訪れる人が後を絶ちません。この日もお昼時はほぼ満席になり、見渡す限り全員がうな重を注文していました。

さて、うな重は重箱が運ばれてきた時から心を高揚させてくれる食べ物。蓋を開けた時にお目見えする蒲焼きのテカリとほのかな湯気、旨みを凝縮したような香りに鼻先をくすぐられた瞬間から「うな重」が始まります。

肝吸いの付いた「うな重」特上 4500円(税込)

日本では「丑の日に『う』が付くものを食べると夏バテしない」という言い伝えがありますが、梅干しやウリ、うどんをおさえて筆頭にあげられるのが「鰻」です。夏バテ予防によしとされるのはたんぱく質をはじめ、脂質、ビタミン、ミネラルなど栄養素が豊富に含まれていることから。そんな「スタミナ食の王者」的な鰻は持久力や集中力が必要な時にも好まれ、将棋の加藤一二三九段も40年以上、対局の昼・夜の食事は決まってうな重を注文していたそうです。

箸を置くと自然に切れるやわらかな蒲焼きをひと口ほおばると、秘伝のタレが余すところなく絡んだ鰻の旨みがジュワッとあふれ、しばらく瞑目。少なめにしかれたご飯の量も絶妙で、鰻を過不足なく味わうための配慮を感じます。

この日、特別に作っていただいた「紅白重」は蒲焼きと白焼き(素焼き)の2種が楽しめる1品。タレを使わない白焼きは鰻本来のわい。宮川の白焼きはふっくらと焼かれ、ほのかな甘みを感じさせてくれました。

蒲焼きと白焼きの2種のうな重が楽しめる「紅白重」3900円(税込)

2022年は土用の丑の日が2回あり「一の丑」は7月23日、「二の丑」は8月4日。機会があれば鰻を楽しんではいかがでしょうか。きっと堪能しながら思うはずです。「やっぱり、夏は鰻だ!」と。

information

渡風亭
東京都目黒区下目黒1-8-1
TEL 050-3188-7570(レストラン総合案内10:00~19:00)
https://www.hotelgajoen-tokyo.com/restaurant/shop/tofutei

鰻 宮川
東京都目黒区目黒4-12-3
TEL 03-3712-2318
https://www.unagimiyagawa-meguro.com