車の往来が絶えない山手通り。
春になれば花見客で賑わう目黒川。
人と車が絶えず行き交う中目黒に知る人ぞ知る、緑に包まれた公園があります。

東京共済病院付近の目黒川沿いを歩いていると、唐突に“緑のかたまり”が現れます。
けれど、公園らしい門があるわけではありません。
「中目黒公園」の入口は、こんもりと盛り上がった木々のあいだに、そっと幅の狭い道が通されているだけ。駐輪スペースに置かれた自転車がなければ、そのまま通り過ぎてしまいそうなほど控えめです。

園内に足を踏み入れると、初夏に煙のような花穂を広げるスモークツリーが目に飛び込んできました。その名の通り、煙がたなびくように見える赤紫色の穂が、空の下でやわらかく揺れています。

園内入り口付近で目をひくスモークツリー。思わず足を止めて見上げたくなる

普段あまりお目にかかれない、モフモフとしたスモークツリーに癒されながら、ゆるやかな坂道を上りきると、不意に視界がぱっと開け、中央には広々とした芝生広場が現れます。
山手通りや目黒川のすぐそばとは思えないほど空が大きく、こんなにのびやかな緑の空間が広がっていたとは!

広場をぐるりと囲むように整備された散策路を時計回りに歩くと、種類も豊富なハーブガーデンが視界に飛び込んできます。バジルをはじめとするこの季節の苗が植えられたばかりの一角もあり、深々とした土の匂いが立ち上ってきます。

散策路のすぐ脇にあるハーブガーデン。植わっているハーブの詳しい説明が載った看板も

ここ中目黒公園は、農薬や化学肥料を使わない循環型の管理方針を掲げる、エコフレンドリーな公園。ボランティアグループにより、刈り取った草はゴミにせず植物の根元に敷き、落ち葉は堆肥として命を繋ぎ、咲き終わった花からは種を採る…自然の生態系をそのままに、人間以外の生きものにとっても安全であろうとする姿勢を貫いています。

そのポリシーは、本マガジンでも紹介した「渋谷区ふれあい植物センター」に通じるよう。もちろん、植物園と公園では役割も成り立ちも異なりますが、都市の中で自然を循環させながら共生していくという感覚はリンクするものを感じます。

広場を囲むように整備されている散策路。歩き疲れたらベンチに腰を下ろしたり、緑に包まれながら読書をする人も

週末、公園の中央を占める芝生広場では、カップルや家族連れがシートを広げ、小さなテントを張って思い思いにくつろいでいます。
子どもたちは裸足で芝生を駆け回り、大人たちはベンチに腰掛けながらコーヒー片手に会話を楽しんだり、読書に浸ったり。

テントを張ってくつろぐ人たちの姿も。自然の循環を大切にする取り組みは、公園を訪れる人たちの心地よい時間も育んでいる

その光景は、都会の休日ならではの豊かな表情そのもの。
働き、移動し、情報に追われ続ける日常のなかで溜め込んだ疲れをここで放電し、また新しい1週間を生きるためのエネルギーを充電する場のようにも思えます。

開けた緑の中では、不思議と時間の流れまでゆるやか。
遠くから聞こえる子どもたちの笑い声、風に揺れる木々の葉音などが混ざり合い、公園全体が大きく呼吸をしているようにも感じられます。

ボランティアが手入れする畑の向こうには「健康とスポーツの広場」が広がる

広場の奥に建つのが「花とみどりの学習館」。
植物や自然環境について学べる展示施設であり、地域に開かれた交流の場でもあります。
館内では図書コーナーのほか、季節の植物にまつわる展示や都市緑化への取り組みなどが紹介されています。

「花とみどりの学習館」の屋上に置かれたプランターにはどこからか種が飛んできてユリの花が咲くことも
「庭の薬屋さん」は暮らしに寄り添う身近な薬用植物が栽培されるエリア

その脇には、公園のシンボルツリーであるジャカランダが、空へ向かって大きく枝を伸ばしています。
南米原産のこの木は、“紫の桜”とも呼ばれ、青紫色の花を鈴なりに咲かせることで知られています。初夏を迎えると「木の周辺が薄い紫の光に包まれるようです」とは、花とみどりの学習館スタッフの方。満開の時期にぜひ訪れたいものです。

取材時は枝先に花がついているのみだったが、ふんわりとやわらかい光をまとっているようでとても美しい

また、園内には断水や停電時でも使用できる「循環型トイレ」が設置されています。
このトイレは水や電気が止まってもタンクの交換なしで約10日間・1万回稼働するもので、災害時には帰宅困難者や地域の人々を支えます。

緑に癒やされる憩いの場でありながら、同時に街の防災拠点としての役割も担っている点に感じられるのは都市と共に生きる公園としての姿勢。

園内に置かれている雨水タンク。雨も無駄にしない、循環型公園の姿勢が伝わってくる

加えて、中目黒公園の魅力としてあげたいのが、水辺の風景がすぐ隣にあること。
すぐそばには目黒川が流れ、公園の緑と川辺の景色を行き来できるという、地の利にも恵まれています。

公園を後にして「なかめ公園橋」に立つと、2つの異なる景色が広がります。
上流側は川面にタワーマンションの影が静かに映り込み、下流側に目を転じると、桜並木の緑が川幅を両岸から包み込むように覆っています。
同じ橋の上に立ちながら、一方は都会の水鏡、もう一方は緑の回廊。桜が終わった後の目黒川の表情を楽しんではいかがでしょう。

上流側では中目黒にあるタワーマンションがそびえ立っているのを見ることができる
緑豊かな下流側の風景。吹き抜ける風も清々しい

上流に歩いて行った先に広がる船入場(ふないりば)は、かつて目黒川を行き交う荷船が、荷の積み下ろしをしていた船着場の跡地を整備した親水空間です。
石畳と護岸が織りなすテラスはダイナミックな表情を見せ、訪れた人たちを水辺に誘います。が、実はこの地下には目黒川の氾濫に備えた「船入場調節池」が眠っています。普段は憩いの場ですが、いざという時には街を守る…。そんな頼もしさが、この場所には息づいています。

中目黒公園から船入場へと向かう道沿いにはアジサイやタチアオイなどが咲き誇る
目黒川の浸水被害を防ぐ巨大な調節池の上に整備された親水テラス

川面を眺めていると、時折カワセミやサギが姿を現すことも。
山手通りの喧騒からほんの少し離れただけで、水辺と鳥に親しめる場所が用意されていることに中目黒という街の奥行きのようなものを感じずにはいられません。

そんな船入場では、「フナイリバ ランチパーク」として日替わりでキッチンカーが出店。
タコスやクレープ、角煮丼、オーバーライスなど、多彩なメニューが並び、川辺のテーブルにはランチタイムを過ごす人で賑わいます。

目黒川の傍らでゆっくり味わう時間は外気が心地いい季節ならではの特権。風と自然光を味方につけた食事には、屋内では得がたい開放感があり、川面のきらめきや行き交う人々、時折飛来する鳥たちの気配までもが、美味しさをつくるエッセンス。

キッチンカーHARAPECOの「肉巻きおにぎり」と「角煮丼」が盛り合わせられた「ハーフ&ハーフ」(950円)。近場のサラリーマンも列を作っており、この場所で昼を過ごす人が多いことがうかがえる

もちろん、キッチンカーでテイクアウトしたフードを片手に、そのまま緑豊かな 中目黒公園 へ向かうのもおすすめ。
芝生広場で風を感じながら頬張っていると、トレンドの発信地として語られることの多い中目黒に、こんなにもゆるやかな時間が流れる場所があることに驚くはずです。

INFORMATION

中目黒公園
東京都目黒区中目黒2-3-14
https://www.city.meguro.tokyo.jp/douro/shisetsu/sports/nakameguro.html