日本には「長いものは縁を結ぶ」という考え方があります。
細くて長い水引はその象徴的な1つであり、さまざまな結び方に意味が込められています。
今年の干支であるヘビもまた、長いからだが特徴的な生きもの。細長いからだをやわらかくくねらせながら動くさまは無限に続く縁を連想させ、水引のしなやかさと簡単に切れない強さに通じるように思えます。
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水引の起源は飛鳥時代にさかのぼり、遣隋使として派遣された小野妹子が持ち帰った答礼品のなかに、紅白に染められた麻紐が結ばれていたことが始まりと言われます。
包むことに焦点を当てると、かつて日本では、公家社会が絹の布と紐を使って贈り物を包んだのに対し、武家では和紙と水引で贈り物を包んだそうです。
吉時の際の水引は白と赤、格式が高い時は金銀のもの。太陽を意味する白(あるいは銀)を左側にして結びました。
結び方にも意味があり、「結び切り」には2度とあってはいけないことを意味し、婚礼には水引の端を天の方向に、弔事には端が地に向かうように結びます。
また、「蝶結び(花結び)」は紐をほどいて結び直すことができるため、何度繰り返しても良いことに使われます。手を動かしながら結び目を作るそのプロセスは、目に見えない祈りといえるかもしれません。
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最近の水引はアクセサリーやインテリアに取り入れられることも多く、伝統と斬新が奏でる美しさが人気を集めています。ある化粧品会社が主催するセミナーのなかで、最も多くの受講者を集めたのが「水引で作るアクセサリー」の講座だったそう。
お祝いの席では華やかに、不幸の際には弔意を表すように色と形を変える、変幻自在の美に日本文化の美意識を感じる人が増えているのかもしれません。
本マガジンでも紹介した「目黒不動」の参道沿いにある「東京水引」では日本に伝わる水引の美しさと技術を受け継ぎながら、固定観念にとらわれない現代的なデザインを取り入れたアクセサリーや暮らしのアイテム、アートワークを展開しています。
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半地下のギャラリーに足を一歩踏み入れると、水引アーティスト、中村江美さんが手がけた感性を刺激する美しいアクセサリーやインテリアなどが展示・販売され「これがあの水引⁉︎」と、感嘆の声を上げずにはいられません。
形、色味、そして1つ1つの存在感が心躍るものばかり!
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ギャラリーの一角では水引を使った箸置きやイヤリング(ピアス)、ネックレスなどのワークショップも開催され、中村さんから直接レクチャーを受けられます。
今回は「あわじ結び」と「平梅結び(椿結び)」の箸置き作り(受講料4,800円)を体験しました。
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まずはあわじ結びを作るため、30cmの水引のなかから5本をチョイス。
複数の水引を使うことで、色の重なりが楽しめます。選びながら、5本の並び順を決めておくとよいでしょう。
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結ぶ前に目抜きを使ってしごいていきます。
こうすることで、水引が扱いやすくなり、美しく曲がりやすくなります。
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1.5本の水引を重ね、端を揃えます。全ての水引が平行になるように整えましょう。
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2.右を前にして中央部に丸を作ります。ポイントは5本が層になるように。「慣れないうちはちょっと難しいかもしれませんが、回数を重ねると慣れてきますよ」と中村さん。交わっている部分を右手で持ちます。
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3.左側の水引を2で作った丸に重ね、交わっている部分を左手で持ちます。
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4.右側の水引の端を最初に作った左側の輪の中に通します。この時、5本の端を揃えておくことが重要です。「内側から1本ずつ引っ張ることで色の並びを調整することができますよ」。
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5.水引の端を上→下→上の順番に通していきます。慣れていないと水引を通す際、焦ってしまいますが、中村さんが横でちゃんと見ていてくださっているので、安心して進めていきます。
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6.両端を引っ張りながら、結び目や形を整えます。中心部分が均等で美しく重なっているかをチェック。
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平梅結びは「固く結ばれた絆」「魔除け」「運命向上」という意味があります。
花びらを思わせるデザインで、見た目が華やか。あわじ結び同様、アクセサリーをはじめ、インテリアやお祝い事の装飾などに使われます。
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平梅結びは、あわじ結びが基になります。
45cmの水引を用いて、あわじ結びを作っておきます。
1.あわじ結びの両端を持ち、結び目から外側に向かって少し引き出します。これを「あわじくずし」といいます。
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2.右側の端を上から入れて下に出します。
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3.左側の端を3つの穴に上→下→上と通していきます。
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4.引き出した部分と輪の広がり具合をバランスよく整えます。結び目が崩れすぎないように、全体の形を均等に調整していきます。
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あわじ結び、平梅結びをそれぞれ作った後は、水引を引いたり寄せたりしながら輪郭を変えたり、凹凸をつけていきます。水引の端は形に合わせてカットするのもよいし、あえて端を伸ばして形作るのもOK。
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仕上げは、繰り返し使えるように食品衛生法に適合したニスを塗ります。
ニスは接着の役目もあるので、結び目が重なる部分や端にもしっかり塗っていきます。
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水引アーティストの中村江美さんが水引と出会ったのは2017年のこと。
美術造形プロデューサーであるご主人がストックしていた美術の小道具の中に水引が見つかり、ふと手に取って伝統的な結び方を試してみたところ、自然と形が整い、完成したそう。これを機に水引のしなやかな美しさに心を奪われ、その魅力を伝えるワークショップや創作活動が始まりました。
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その後、産休・育休を経て仕事に復帰すると、水引に対して新たな視点が芽生えたといいます。それは伝統の枠にとらわれない、より自由で伸びやかな発想の作品を創りたいという熱い想い。中村さんいわく「これまで手がけてきた水引の作品を全て作り直したいと思うほどでした」。そして2020年にオリジナリティを追求した水引のアクセサリーブランド「東京水引」が誕生。
この日、中村さんの耳もとを華やかに飾っていたスタイリッシュなイヤリングも水引で作られたもの。「まるで付けているのを忘れるくらい軽やかなんです」とやわらかく微笑みます。
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2023年には「G7サミット」が開催された広島で各首脳陣が出席した会食のために長さ24mの「水引のテーブルランナー」を手がけ、「渋谷ファッションウィーク2024 」では渋谷のシンボルであるハチ公が中村さんの手掛けたオリジナルの水引衣装をまとい、イベントを華やかに彩りました。
「水引の衣装に繊細で儚いイメージを持たれた方もいらっしゃったようですが、とても丈夫で、3日間の展示中、ほどけたり、形が崩れることはありませんでした」と振り返ります。
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「これからも水引の魅力をもっと伝えていきたいですね。アクセサリーをはじめ、大きめのインテリアや花と調和するデザイン、そして壁かけのように空間を彩る作品も、もっと創って行きたいと思います」。
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2025年は干支であるヘビの動く時のようにしなやかで、水引の結び目のように強く。
新しい縁を結びつつ、これまでのご縁をさらに深めていく1年になることを願っています。
今年も多くの喜びと幸せが皆さまに訪れますように。
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