8月22日は何の日かご存じでしょうか?
それは「チンチン電車の日」です。
1903(明治36)年のこの日、東京で初めて路面電車(チンチン電車)が新橋~品川間を走ったことにもとづき、「チンチン電車の日」に制定されました。
街中をチンチン電車がゆっくりと走る風景はとてものどか。東京都内には2つのチンチン電車が走り、1つは「都電荒川線」、もう1つがわれら城南地区の東急電鉄「世田谷線」です。三軒茶屋駅・下高井戸駅間を約18分で結ぶ世田谷線は1925年に三軒茶屋駅 – 世田谷駅間の走行を皮切りに下高井戸駅まで路線が伸びました。
ところで、東急線全路線は2021年4月より、
今回は夏休みに親子で散策したい世田谷線沿線のスポットをご紹介します。
旅のスタートは腹ごしらえから。しかも、ファストフードやファミレスではなく、普段食べられない世界の料理で旅気分を盛り上げよう!というわけで訪れたのは世田谷線「三軒茶屋」駅が最寄りのメキシコ料理店「Los Tacos Azules(ロス・タコス・アスーレス)」。
ブルーとホワイトの壁、大きなサボテンが目印のお店では朝9時からメキシカンなメニューが楽しめます。名物はオーダーを受けて焼かれる青いとうもろこしを使ったタコス。季節によってラインアップは若干変わりますが、ぜひ味わってほしいのはお店の看板メニュー「カルニータス(低温燻製したカリカリ皮付き豚肉)」のタコス。ジュッととろけそうな豚肉の旨みが口のなかに果てしなく広がり、豚肉ラバーにはたまりません。
5つのタコスが試せる「モーニングタコス」も楽しめるLos Tacos Azulesでお腹を満たしたら、世田谷線三軒茶屋駅にある観光案内所「サンチャキューブ」へ。ここには世田谷線沿線の観光スポットを紹介するパンフレットが充実しているので、世田谷線に乗る前に情報をゲットしておきましょう。
さあ、いよいよ世田谷線乗車です。もし世田谷線を1日のうち何度も乗車するなら「世田谷線散策きっぷ」(大人 340円、子ども170円)を購入しましょう。1日有効の乗り放題切符で、大人であれば3回以上乗るとモトがとれるので利用しないテはありません(笑)。
三軒茶屋駅から背の高いタチアオイが左右に生える線路沿いの住宅街や環七通りの風景を車窓から眺めながら「山下」駅へ。
目指すスポットは招き猫のお寺として有名な「豪徳寺」です。山下駅から豪徳寺に続く約15分の道のりは個性的なお店が点在する豪徳寺商店街が終わった後に突如、閑静な住宅街が広がり、街の展開に驚きます。
瀟洒なお宅が建ち並ぶ住宅街にある豪徳寺が招き猫ゆかりのお寺と言われるようになったのは江戸時代のこと。こんなお話が伝わっています。
江戸藩邸に暮らしていた井伊直孝は鷹狩りの帰りに豪徳寺付近を通りがかった時に1匹の猫に遭遇します。その猫が自分を招いているように感じた彼が門内に入った途端、雷雨に。猫のおかげで天候の難を逃れることができたというわけです。そんなことから「招き猫」のお寺と言われるように。境内には夥しい数の招き猫の置物がズラリ!社務所では色々なサイズの招き猫が購入できるので、お土産に選ぶのもよいでしょう。
なお、このお寺は井伊家の菩提寺でもあり、境内の一角には招き猫と遭遇した井伊直孝や幕末期の江戸幕府で大老を務め「桜田門外の変」で暗殺された井伊直弼などのお墓も。石造りの年季を感じさせるお墓が建ち並ぶ様は手つかずの聖域を思わせます。鬱蒼とした樹木に囲まれた広い墓所はさっきまでの山下駅から豪徳寺商店街周辺の雑踏を忘れさせるほど静か。なお、この場所はスリランカ原産のワカケホウセイインコをはじめ、キツツキや鷹などの飛来地となっているそうです。
招き猫のお寺から再び、山下駅へ。駅前の山下商店街には自家製のハムやソーセージが有名な「デリカテッセン トミナガ」や招き猫の最中やお饅頭が買える和菓子屋「東肥軒」などでお買い物をするのもよし。また、世田谷線乗り場に隣接する「たまでんカフェ山下」では世田谷線や招き猫グッズを販売していますよ。
チンチン電車に揺られて約8分。降り立ったのは終点の「下高井戸」駅です。
この街のシンボルといえば、名画座系の映画館「下高井戸シネマ」。昔は三軒茶屋にも映画館が2館ありましたが、残念ながら閉館。下高井戸は世田谷線沿線で唯一、映画館のある街となりました。下高井戸シネマのスタッフは「子ども料金(3才以上800円)をお安く設定しているので、ぜひ子どもの頃から映画館という場所に親しんでほしいですね」と話します。
ランチタイムを過ごすなら、下高井戸の穴場なお店が「Tea&Sweets テェ・テェ」。世田谷線下高井戸駅からすぐの立地にある、知る人ぞ知る隠れ家風のお店です。紅茶と焼き菓子専門店と思いきや、ランチメニューには「たまごサンド」や「デミグラスオムライス」、「フレンチトースト」などが並びます。どれもボリュームがあり、食べ進めるのが嬉しくなるものばかり。
外は世田谷線と京王線の電車が行き交う喧しい場所なのに、ウィリアム・モリスの美しい壁紙やさりげなく置かれたグリーン、ティーカップ&ソーサーが並ぶ様子にも心が潤される店内で食後の紅茶をいただくとエレガントな気分に浸れるはず。
さあ、旅も終盤。下高井戸から「西太子堂」駅へ向かいます。時間があれば「代官屋敷」のある「上町」駅や吉田松陰を祀った神社やそぞろ歩きが楽しい商店街のある「松陰神社前」駅で下車するのもよいでしょう。
西太子堂駅で下車、徒歩約5分の場所にある木のおもちゃとジェラートのお店「Woodayice(ウディック)」へ。木があたたかみを感じさせる店内では、世界初のゴムの木の廃材を使用した玩具メーカー「プラントイ 」の製品や国内の作家が手がけた木工玩具などがところ狭しと並んでいます。ちなみにどの製品も手にとって試すことができますよ。
お店のジェラートは1980年半ばに本格的なイタリアンジェラートを日本に広めた方がプロデュースしたもの。お店イチオシの「ピスタチオ」をはじめ、定番の「絶品3種のみるく」や季節のフルーツを取り入れたものなど、年間約80種類のジェラートが時折入れ替わり、ショーケースを彩ります。イートインスペースも用意されているので、濃厚なジェラートを木のおもちゃに囲まれながら楽しんではいかがでしょうか。
さて、空に近い場所で夏の夕暮れを鑑賞したい…そんな気分が生まれたらウディックから徒歩約3分の「キャロットタワー」の展望室に立ち寄るのもオススメ。西は富士山、東には東京タワーやスカイツリー、北には新宿副都心が、そして羽田空港に降り立つ飛行機を眺めることもできます。
この記事を企画・撮影した本マガジン編集部のS・C嬢は今回、晴れての世田谷線デビュー。
「これまで足を踏み入れる機会がなかった世田谷線エリア。マップ上での事前リサーチは、こんなディープな場所にこんなニューウェーブなお店が?という興味深い発見があり、この時点で既に楽しかったです。
一部の駅では、改札がなく、たった2つの短い車両の中へ乗車します。都内では駅員さんが不在の駅も珍しいですし、2車両の電車も見かけません。ですが、やはり東京。利用者は多く電車には多くの人々が。乗車口は前と後ろの2か所と決められ、そこでICタッチや現金を払うシステム。そんな違和感が、更に楽しい。
穏やかな住宅街の中を走る電車に揺られていると、思わず喧騒な東京生活を忘れてしまう約18分間のショートトリップのようでした」と語ります。
上のイラストマップも彼女の力作です。ぜひ、世田谷線親子旅の参考にしてくださいね。