世田谷公園の三宿通り入り口からほど近い場所にある東京都世田谷福祉作業所(世田谷区下馬)。事業が開始されたのは1967年で、施設の外観は昭和の学校建築を感じさせる味わいがあります。
この付近には大小の公園や図書館、2つの大学があるほか、1958年を皮切りに建造された都営の団地(一部建替中)が林立。三軒茶屋周辺ではとりわけ高度経済成長期の面影を残すエリアといえるでしょう。最寄駅は東急田園都市線「三軒茶屋」駅ですが、駅周辺の喧騒とは無縁の閑静な土地柄です。
開所から半世紀以上を経た福祉作業所の一角を改装したカフェ「BA-WA」がオープンしたのは2021年2月のこと。コンセプトは「BA(場)」と「WA(輪)」の提供で、カフェのみならず、コワーキングスペースやアート展など、さまざまな使い方がなされています。世田谷福祉作業所のカフェとしては2店舗目で、最初にできた「しあわ世のもりあわせカフェ」はBA-WAから徒歩約1分の場所にあります。
入り口の引き戸を引いてなかに入ると、ガラス窓から自然光がたっぷり入るゆとりある空間に驚きます。クリエイティブディレクターが改装を手がけた室内は天井からスポットライトが配され、壁の一部に施したペイントがアクセント。誰でも弾けるアップライトピアノも置いてあります。席と席の間が広く、どの席に座ってものびのびできそうな解放感。「窮屈」の対極にある空間です。
福祉作業所の食堂だったカフェには昔の名残が見られます。レンジフードはそのまま、長い作業台はベージュ色の布で覆われています。使っていたものをすべて覆い隠すという選択もあったと思いますが、作業台を覆っている布のデコボコ感に当時の食堂を想像する楽しみがあります。利用者の皆さんが食べていた料理、お皿やコップ、会話が奏でる心地よいざわめき…。
アクリル板で仕切られたカウンター席の下にも、食堂時代を語るものが残っています。それは大きな収納棚。昔は大きな調理道具や食事に用いるものを置いていたのでしょう。電源はありませんが、wifiが使えるので、この席で仕事をする人も少なくないようです。
またメニューにはドリンクはもちろん、カレーやリゾットなどの軽食やケーキも用意され、どれも美味しく、リーズナブル。抽出しすぎて余ったコーヒーは捨てることなく、メレンゲやババロアに利用するなど、大切に扱われています。
アート展の会場としても使われ、2022年1月20日〜2月16日まではアーティストKota さんによる『Oneness -ワンネス- 』展を開催。「Oneness=全てはひとつ」をテーマにイマジネイティブな世界を表現するKotaさんは職場がBA-WAの近くにあり、お客さんとしてこのカフェを利用されていたそう。
「料理もデザートも美味しいので、ランチタイムによく来ていたんです。ある時、アートを制作しているという話をしたことから今回の個展につながりました。会場に来てくれた人とお茶も飲めるし、ゆっくり語り合えるのもよいですね」と話します。
KotaさんのHPはこちらから。
この日、Kotaさんの展覧会に訪れたお仲間(皆さん、世界中を旅されたワールドバックパッカーだとか!)のおひとりとBA-WAの素敵なデザートを担当するパティシエにしてピアニストの女性が即興でビートルズのナンバーを披露する場面に遭遇。空間と体温のようなあたたかさが溶け合った時間!思いがけないLiveは店名に込められた「場と輪」を感じさせてくれました。このカフェはきっとこんなふうに有機的な時間を刻んでいくのでしょう。これまでも、これからも。