三軒茶屋駅前から伸びる世田谷通りを歩いていると、ふと目を奪われる深緑の建物を発見!
その色合いはかぼちゃの皮のようで、壁面を飾る美しいランプとの組み合わせはシンデレラが乗った、かぼちゃの馬車を思わせます。

ビルや街路樹に混じりながらも、そこだけ童話の世界観を切り取ったような不思議な存在感のあるお店の名は「カボチャ」。扉を開けば、かぼちゃ尽くしの世界が広がっていました。

2021年に世田谷通り沿いに移転オープンした「カボチャ」。三軒茶屋駅から徒歩約8分の立地にある

お店はスイーツが中心ですが、かぼちゃを具材に用いた軽食も楽しめます。目移り必至のかぼちゃスイーツが所狭しと並ぶショーケースの上にもスイーツや軽食のサンプルがのっているので、心と胃袋にグッときたものを選びましょう。

人気店だけに行列必至。ショーケースには、所狭しとかぼちゃづくしのスイーツが並び、心をわくわくさせる

最初にいただいたのは、チーズがたっぷりのったグルテンフリーの「カボチャピザ」(748円)。トマトや玉ねぎの間にゴロッと入ったかぼちゃの甘みが溶け込み、まるで大地の恵みをそのまま頬張るような滋味を感じさせます。

テイクアウトもできる「カボチャのピザ」は、濃厚でグラタンのような味わい

こちらは「紫芋とカボチャ 焼きプリン」(742円)。その名のとおり、濃厚なかぼちゃの風味が凝縮され、皮ごと味わえるコクの深みに驚かされます。紫芋を使った焼きプリンは11月上旬までの季節限定メニュー。オレンジとパープルの鮮やかなコントラストは、まるで実りの秋をパレットからそのまま塗り広げたようです。

秋限定の紫芋焼きプリンは、通常のカスタードとはひと味違う季節のお楽しみ
メイプルシロップシロップのコクが素材の風味を引き立ててくれる

「ほっくりかぼちゃ」(891円)は秋の恵みをぎゅっと閉じこめたような、デコラティブなかぼちゃのデザート。香ばしく素揚げしたかぼちゃを濃厚な塩キャラメルナッツでからめ、その上にバニラアイスが鎮座。仕上げに飾られるのは、馬蹄を思わせる軽やかなかぼちゃチップス。黄金色に輝くその姿は見た目にも華やかで、食べる前から心を弾ませてくれます。

見た目のインパクト抜群のデザート、その名も「ほっくりかぼちゃ」
かぼちゃのゴロゴロ感がたまらない!さまざまな食感と甘みが楽しめるデザートはテイクアウトもOK

さて、かぼちゃの起源は古代メキシコにあるといわれますが、日本に伝わったのは16世紀。ポルトガル人が日本へ持ち込んだ際、カンボジアの産物であると伝えられたため、「カンボジア」がなまって「かぼちゃ」と呼ばれるようになったといわれます。当初は「カンボチャ瓜」(カンボジャ瓜)とも呼ばれ、その響きに異国の匂いが漂います。

人々は遠い南方の地に想いを馳せたのではないではないでしょうか。

メイプルシロップのまろやかな甘みに心和む「かぼラテ」(682円)

ハロウィンイベントの熱狂が報道されるようになった近年、かぼちゃと聞けばハロウィンの夜に灯る「ジャック・オー・ランタン」を思い浮かべる人も多いでしょう。
これはアメリカ大陸に移住したアイルランド人が、故郷に伝わる伝説を新天地へと持ち込んだことに端を発します。

ジャック・オー・ランタンとはケルト文化に根ざした物語で、ずる賢い男ジャックが悪魔をだまし続けた結果、天国にも地獄にも行けず、ランタンを持ってさまようというお話です。アイルランドでは当初カブをくり抜いて灯りをともしていましたが、海を渡ったアメリカではかぼちゃへと変わり(生産量の多さや安価、あるいは魔術の道具だった?)、現在のハロウィンの顔となりました。

古の東南アジアの熱気を帯びた交易路によって運ばれてきたかぼちゃにケルトの神秘的な伝説が重なり合い、時と海を越えたその実りは、いまや日本の街角で甘やかな香りとともに息づいています。

三軒茶屋のカボチャが届ける「坊ちゃんかぼちゃのチーズケーキ」(1,375円)はまず、掌に収まるほど小さなかぼちゃを丸ごと器にした姿に圧倒されます。
楽しいのは表面を割る時。飴をたっぷりまとったかぼちゃの表面にナイフを入れるとカリッと軽快な音を立て、チーズケーキが静かに顔をのぞかせます。そして口に入れるとやってくるのは、ホクホクのかぼちゃと甘みをおさえたチーズケーキの甘やかな誘惑!

ハロウィン限定、ゴーストの飾りが愛らしい「坊ちゃんかぼちゃのチーズケーキ」
断面の愛らしさはサプライズ!思わず歓声があがりそう

ハロウィンシーズンを迎えると、店先にはオレンジ色のグッズが並び、10月31日の夜には仮装した人々が街を練り歩きます。くしくもその頃は「イモクリナンキン」が1年で最も脚光を浴びる季節。かぼちゃはとしっとりとしたケーキやなめらかなプリンとなって、スイーツ愛好家の心と胃袋をしっかりとつかみます。

日常の食卓を彩る野菜でありながら、一瞬にして人々を非日常へと誘い出すーそうした2つの顔をあわせ持つのが、かぼちゃが秘める魔法なのかもしれません。

information

カボチャ
東京都世田谷区若林1-7-1
03-5481-1553
https://www.instagram.com/kabocha2_38_10/