猛暑が連日続いた2023年夏。
9月の声を聞いてもその暑さはなかなか退かなかったのは記憶に新しいはず。

熱線のような陽射しが容赦なく照りつける9月中旬のお昼時、表参道駅近くの路地にあるベーカリー「AMAM DACOTAN(アマムダコタン)」への行列を作るのは、その暑さをものともしない美味へのあくなき探求者たち。

猛暑のこの日、行列を作っていた9割は女性だった

2018年、福岡市で生まれたアマムダコタンが東京・表参道に出店したのは2021年10月。開業3年にして、しかもコロナ禍で飲食が大きな打撃を受けていた中での東京進出はベーカリー・飲食業界にとっても、パン愛好家にとっても刺激的なニュースでした。

ビルが日陰を作っているとはいえ、炎天下のなか、行列に並ぶこと約20分。
ようやく入店すると、さっきまでの暑さは一瞬にして忘却のかなたへ。

グレーを基調にした、こぢんまりとした店内は野趣あふれるドライフラワーが吊るされた天井、石畳風のフロア。
ヨーロッパのアンティークを思わせる什器やお皿には見ているだけでワクワクするようなパンが所狭しと並び「いったいここはどこの国!?」と嘆息させてくれます。
童話の世界観を感じさせる内装とディスプレイ、そして小麦粉に魔法をかけたといわんばかりのパンたちが創り出す、幻想的な空間はまるでファンタジックホラーの巨人・ティム・バートン監督の映画セットに迷いこんでしまったかのよう!

パンのディスプレイにワクワクする。パンの名前を覚えるのも楽しみの1つ

この空間の主役はこぼれそうなほど具材がたっぷりと挟まれている(詰め込まれている)バーガーやホットドッグなどの惣菜系及びスイーツ系のパン約120種。売り場とほとんど境目のない厨房で作られた、出来立てホヤホヤが職人さんたちによってどんどん置かれていきます。

イタリア料理で腕を磨いたオーナーシェフのお店だけにパンに使う具材はすべて自家製

どれも個性があり、胃袋を誘惑するほど魅力的。
トングを握る手が「どれにしよう」と迷いますが、思考でなく直感を信じて。
ある意味、このお店は五感を磨くエクササイズに適した場といえるかもしれません。

というわけで、こちらが本能に任せて選んだパンの数々。

お店ではイートインも可能。
アンティーク風のテーブルと椅子が置かれたテラス席と店内の厨房に面したカウンター席が用意されています。

お店で購入したパンを食せるテラス席。会計時にドリンクもオーダー可能

お店のシグネチャーバーガーというべき、紫キャベツのマリネが映える「ダコタンバーガー」 (下の写真、560円)は、初めてアダムダコタンを体験する人に味わってほしいメニュー。
ゴマとミックスシードをまぶしたもっちりとした食感のバンズのおなかにあふれんばかりに詰め込まれているのは、粗挽きのパテに焦げ目が食欲をそそるナスやカボチャ、パプリカなどのグリルされた野菜。栄養面もバッチリで、これ1つでも充分満足できるボリューム感。

ソーセージに「おいでおいで」をされ、迷わずトレーにのせた「ソーセージドッグ」 (490円、右)と表参道店限定メニュー「サブジドッグ」(580円、左)。

自家製ソーセージは美味しさを追求するため、数種のハーブがオリジナルで配合されたもの。
ルヴァン種のパンに挟まれた、グラマラスなソーセージは焼き上がりのよい匂いに鼻先をくすぐられ、頬張るとプリプリとしてジューシー。ソーセージラバーはぜひ選びましょう。

インドの野菜料理「サブジ」をアレンジしたサブジドッグは忙しく立ち働くスタッフの方に「表参道店でしが食べられないものはどれですか?」と尋ねたところ、オススメいただいたメニュー。スパイシーな具材がたっぷり詰め込まれています。

甘みのある焼きトウモロコシとバジルをトッピングした、エスニック風味満点の「サブジドッグ」は表参道店だけで食べられる

ところで、店内の5席のカウンターは厨房で働く職人さんたちのお仕事を見て、タイミングによってはお話もできる、ちょっと特別な席。
目の前で卵料理を仕上げている職人さんに「何に使うのですか?」と尋ねると「たまごサンドです。たっぷり入りますよ」とのこと。
なんと、お店のパンに使う具材はすべてこの厨房で作られているそうです。

入り口脇のスイーツ系パンのコーナー。パンをのせる個性的なお皿を見るのも楽しい

スイーツ系のパンもひねり技が効いています。
フォルムがキノコを思わせる「塩クリームパン」(左、420円)はトロトロのカスタードクリームにコクのある塩気を感じるはず。そのコクの正体はなんと昆布ダシ!

「いちじくのフルーツサンド」(右、460円)に使われているのはホイップクリームと思いきやチーズクリーム。出回りはじめたいちじくとのバランスの良さを追求している姿勢を感じます。

天井のドライフラワーが夢幻的なムードを醸すカウンターでいただいていると、「マンゴーの生台湾クリームドーナツができあがりました!」と売り場からも厨房からも威勢のよい声が。
スタッフ全員で次々に出来上がったパンをお客さんに告げる声が飛び交うお店はあたたかみがあり、なんだかパンの美味しさをグイグイ深めていくようで有機的。
見た目や味わい同様、お店のしっかりとした軸を感じました。

カウンターの上にもドライフラワーが。おまじないのような店名はアイヌ語で「アマム」は小麦、「ダコタン」は集落を意味する

ちなみに前述の「ドーナツ」に反応した方はきっと、このお店が表参道と中目黒で行列必須のドーナツショップ「I’m donut ?」の母体であることをご存じですよね?

information

AMAM DACOTAN 表参道店
東京都港区北青山3丁目7−6
TEL 03-3498-2456
https://amamdacotan.com