フランスのラグジュアリーなクリスタルガラス製品として知られるバカラ。今回は武蔵小山(目黒本町5丁目)の「ギャラリーつつい」で開催された「オールドバカラ」展(2021年9月9日〜25日)を訪ね、昨年新築したギャラリーや時を経ても美しい存在感を放つバカラ製品について、オーナーの筒井千尋さんにお話をうかがいました。
ー吹き抜けのある2階建てのギャラリーは外観も内装も個性が感じられますね。こだわった点をおしえてください。
筒井千尋(以下、筒井)
道路に面した小さな土地なので、建築には制約がありました。なので、購入する段階からこのギャラリーを設計した建築家に土地を見てもらいました。スッキリとした建物なので、玄関だけはこだわりましたね。ヨーロッパの雰囲気を出したかったので、フランスの古い扉を扱っているお店を見つけ、静岡まで行ったんですよ。そこで一番気に入ったアイアンの扉を買い、ステンレスの仕事をしている主人に頼んで、少々加工してもらいました。なかなか味のある入り口になったのではと思います(笑)。
外壁に取り付けている2つのレリーフはイラストレーターのミック板谷さんの作品です。芸術の女神である「ミューズ」と「バード」。本当は壁に絵を描いてほしかったのですが、外壁にガルバリウム鋼板を用いたのでレリーフに変更しました。
内装は白で統一して、どんな展示にも合うように仕上げました。主に日本の伝統工芸品を扱っているので、展示用の台として南部和箪笥を用いています。
ーギャラリーの最寄駅は武蔵小山ですか、筒井さんにこの街はどのように映っていますか?
筒井
武蔵小山駅周辺は再開発で昭和な雰囲気のレトロな飲み屋街がなくなり、タワーマンションが建ってから人の流れが変わったように思います。ですが、武蔵小山は日本一長い商店街が健在。ここでは生活に必要なものは何でも揃い、暮らしやすいので、長く住みたいと思う人が多いのではないでしょうか。
ギャラリーの近くにある「平和通り」もまた、昔ながらの商店街で庶民的な雰囲気。おすすめは練り物屋さんのハンペンで、お客さまに頂いてその美味しさに感動して以来、自分でも買いに行くようになりました。
「ギャラリーつつい」は母が版画のギャラリーとして仙川に開き、私が継ぎました。成城学園前や青山などを経て、2020年6月に移転オープンしたのですが、この外観のせいか近所の人たちも興味をもたれたようで、オープン直後は「なかはどうなっているの?」とよく尋ねられましたね。
ー「オールドバカラ」展では100年以上前に作られたものなど、年代ものの製品が集まっていますね。アンティークのバカラとの出会いや魅力についておしえてください。
筒井
大学でヴィクトリアンジュエリーを学んでいたこともあり、宝飾品の歴史が長いヨーロッパの芸術や文化に興味がありました。イギリスに滞在していた時はしょっちゅう蚤の市に行き、アンティークジュエリーを見つけては手仕事の美しさにふれていましたね。
オールドバカラに初めて出会ったのはフランスです。100年以上前に作られた製品に出会い、その高い芸術性と職人の技術に感動しました。その後、偶然にも目黒のお店でオールドバカラを見つけ、時を超える美しさを再確認しました。
18世紀にルイ15世の認可を受けてロレーヌ地方にガラス工場が作られたのがバカラの始まりですが、それまでフランスにはガラス工芸がなく、チェコのボヘミアングラスが主流でした。フランスが国をあげてガラス工芸を推進した結果、1823年のパリ国民博覧会で注目を集め、世界の王侯貴族に愛用されるブランドになったのです。ヨーロッパにはバカラ専用のオークションもあるんですよ。
私が収集しているオールドバカラはフランスやイタリアから送られてきます。昔作られていた数に限りがあるものだから、どこかで見つけられ、世に出回るタイミングでしか買えない点にご縁を感じますね。個人的な意見ですが、アンティークのバカラを知ると、今の(大量生産されている)バカラはちょっと物足りない気がしますね。
ーオールドバカラにはアラベスク文様が美しい 「MICHELANGELO」をはじめ、アールデコの代表的な幾何学模様と蔦が描かれた「RIDO」、植物を思わせるグリーンカラーに包まれた「CHAUNY」など、さまざまな種類がありますね。楽しみ方をおしえてください。
筒井
色の入ったグラスや香水瓶をテーブルに置くと、光を受けて色彩が広がり、華やかな印象になります。デキャンタはそのままだとわからないかもしれませんが、ワインを注いだ途端にガラスに描かれた模様が浮き出ます。使うことで美しさがわかるのです。
お客さまからは「オールドバカラのグラスでワインやリキュールを飲むと美味しく感じる」という声を聞きます。飲みものにもよりますが、飲み口の薄さや空気の含み方などが作用するのかもしれませんね。オールドバカラは鑑賞品ではなく、ぜひ日用品として使ってほしいと思います。ギャラリーでは展覧会を終えてもオールドバカラをご覧いただけますよ。
「樹の鞄」展
ーギャラリーではどのような作品と出会えますか?筒井さんのギャラリーへの思いを聞かせてください。
筒井
日本の伝統工芸品を中心にした展覧会を企画しています。オールドバカラ展の前は亀井勇樹さんの「樹の鞄」展でした。10年以上寝かせた樹齢150年以上のシナノキて作る、1点1点表情が異なる鞄です。
2021年10月以降は「菅野康子ジュエリー」展(10月8日〜21日)、「かんざし(赤浦圭)サフィレットビーズ(吉田こづえ)2人展」(11月12日〜27日)、12月には再び「オールドバカラ展」を開催する予定です。
完成された作品は時代を経過しても、古くさくなることはないと思っています。いつ見ても、使っても、心を満たしてくれる素敵なもの。なので、お若い方も色々な作品を見てセンスを磨き、自分の好きなものに出会ったら会話をしてほしいと思います。その架け橋となるギャラリーになれるといいですね。
- 筒井千尋 プロフィール
大学卒業後、株式会社アオイに入社。
「フェンディ」「フェラガモ」「ボッテガ べネタ」「アクリス」「ブルガリ」などの日本の代理店会社に勤務し、最先端のファションを学ぶ。
退社後、1998年に家業である「ギャラリーつつい」を継ぐ。
2020年6月、目黒本町にギャラリーを移転。
日本の伝統工芸品を中心に絵画・陶器・漆・蒔絵・古代ジュエリー・簪・アンティークビーズ・樹の鞄などの一点一点作家さんのこだわりが詰まった作品の企画展を中心に運営。