2022年の「ユーキャン新語・流行語大賞」は「村神様」に決定しましたが、「ヌン活」がノミネートされていたのは記憶に新しいところ。
ヌン活とは「アフタヌーンティーを楽しむ」ことで、ホテルのラウンジやカフェで軽食とお菓子がのった3段重ねのプレートを囲んで談笑する女性グループの姿を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
アフタヌーン“ティー”と名付けられていることから、紅茶の国である英国発祥の食文化であることはよく知られていますが、その歴史や文化的背景はいったいどんなものだったのでしょうか。
ウェスティンホテル東京の「ザ・ラウンジ」で提供される「苺とピスタチオのアフタヌーンティー」の美しい色彩にうっとりするティーフーズや、紅茶などを紹介しながら、アフタヌーンティーの生まれた歴史や背景について紐解いていきましょう。
公爵夫人の間食から始まったアフタヌーンティー
英国でアフタヌーンティーが産ぶ声をあげたのは1840年頃。
7代目ベッドフォード公爵夫人のアンナ・マリアの邸宅「ウーバンアビー」で始まりました。当時の貴族の食生活は朝食と夜8時〜9時頃からの1日2食。アンナ・マリアは夕食までの空腹を満たすため、夕方になると間食の習慣をもつようになりました。それが後にアフタヌーンティーとして英国以外の国々でも人気を集めるとは誰も想像できなかったことでしょう。
ウーバンアビーのアフタヌーンティーはこの邸宅を訪れる女性ゲストに好評でした。アンナ・マリアはヴィクトリア女王の母親に仕えていたこともあり、時の英女王であるヴィクトリア女王もウーバンアビーの応接間でアフタヌーンティーのもてなしを受けたこともあるそうです。ちなみにベッドフォード家には女王が滞在した部屋が今も当時のまま残されているそう。
女王も訪れたウーバンアビーのアフタヌーンティーは評判を呼び、1859年にはなんと12000人が招待されたという記録が残されています。単純計算すると1日約32人!? やがて、上流階級から生まれた素敵な習慣はやがて一般庶民にまで浸透することになりました。ヴィクトリア朝の社交にアフタヌーンティーが大ブレイク!といったところでしょうか。
「苺とピスタチオ」のツインフレーバーに心踊る!
さて、アフタヌーンティーをいただく時に目を引くのが三段のシルバースタンド。
これはホテルやティールームから発祥したスタイルで、その名を「THREE TIER STAND(スリーティアスタンド)」といいます。
このスタンドに乗せられるオーソドックスなティーフーズは、下からBOTTOM TIER(サンドイッチなどの軽食)、MIDDLE TIER(スコーン)、TOP TIER(ペストリーなど)となりますが、提供する場所によって内容は変わります。
アフタヌーンティーに欠かせないティーフーズといえば、スコーン。
ウェスティンホテルのスコーンはプレーンとクランベリーの2種で、卵を使わず、ヨーグルトと牛乳で仕上げています。シルバースタンドではなく、カゴに入り、赤ん坊みたく大切なものを扱うように布に包まれていることに作り手の愛を感じます。
クロテッドクリームのほか、蜂蜜、マーマレード、ブルーベリージャムをのせていただいたところ、その軽快な食感とミルキーな風味が口の中で溶け合うと言葉もなくなり、ただ瞑目。
軽食が並ぶ一番下のお皿にはサラミのオープンサンドやハムやチーズを挟んだサンドイッチ、サワークリームとツナのボローパンなど。
中段のお皿はウェスティンホテル名物のシュークリームをはじめ、ピスタチオのチーズテリーヌ、タルトフレーズ、ピスタチオのマカロンなど、クリーム系の濃厚なスイーツの饗宴。
さて、アフタヌーンティーでは12種のドリンクのおかわりが自由。
ぜひ味わっていただいきたいのが「ストロベリーロイヤルミルクティー」で、苺のフレーバーがミルクティーに染み出し、カップを口に運ぶたびに舌が踊るよう。
また、焼き菓子もお好みのものが選べる「ガトープラッター」が回ってきます。
上段は「苺とピスタチオのアフタヌーンティー」を一番表現しているスイーツが集結し、どれからいただこう?と、幸せな悩みがアタマを独占。こんな悩みなら1日中、いえ1週間でもOKです。
その悩ましいラインアップはマスカルポーネクリームとイチゴのマリネ(瓶入り)、ピスタチオの黄緑色とイチゴの赤色が美しいフレジェ、中に濃厚なクリームが詰まったストロベリーバスケット、ピスタチオのクリームとイチゴのフールなど。
弾丸よりも紅茶!
英国式アフタヌーンティーの歴史に戻りますが、ヴィクトリア朝では本格的なティーフーズを作るための「スティルルーム」という温度管理ができる部屋を設ける館もあったそうです。なかには提供するお菓子に合わせてフランス人の菓子職人を雇ったお宅もあったそう。
またこの時代にはなんと、アフタヌーンティーのための衣装も登場しています。
いわゆる「茶会服」ですが、紅茶を注ぐ時に胸元が見えず、くつろぎを追求するために腰まわりがゆったりとしたもので「ティーガウン」と呼ばれたそう。お洒落にこだわるご婦人方のなかにはオーダーメイドで作る人もいたほど。ファッションにまで影響を及ぼしたアフタヌーンティー、おそるべし。
上流階級から始まったアフタヌーンティーは、やがて庶民の間でも広まっていきました。しかし、正統派のお茶の淹れ方や茶会のマナーなどにはなかなかおぼつかないのが現状。そんな庶民の虎の巻となったのがイザベラ・メアリ・ビートンの『ビートンの家政本』。ティーフーズのレシピも掲載されており、この本に助けられた女性は沢山いたことでしょう。
かつて英国の首相ウィンストン・チャーチルは戦時中「戦地で弾丸が切れても、紅茶を決して切らしてはいけない」という言葉を残しています。
彼の言葉が表すように、英国では紅茶がソウルフードならぬ“ソウルドリンク”のよう。
英国では紅茶ありきのアフタヌーンティーですが、日本ではどちらかといえばスイーツありきの習慣となっているようです。
ちなみに英国ではシャンパンを取り入れた「シャンパンアフタヌーンティー」やティーとデトックスをかけたダイエッター向きの「ティートックスアフタヌーンティー」などを提供するホテルもあるそう。流行モノ好きな日本人にティートックスなんて支持されそうです。
いつか本マガジンで「進化系アフタヌーンティー」を紹介することがあるかもしれませんね。
<参考文献>
英国紅茶の歴史(Cha Tea 紅茶教室著、河出書房新社)
INFORMATION
ウェスティンホテル東京 ロビーラウンジ「ザ・ラウンジ」1階
東京都目黒区三田1-4-1
TEL 03-5423-7778
提供期間:2023年4月30日(日)まで
※土・日・祝休日限定
提供時間:12:00~ 14:30~ 17:00~
※2時間制(30分前にL.O)
料金:5,800円(税・サービス料込)
https://www.marriott.co.jp/hotels/travel/tyowi-the-westin-tokyo/