東急田園都市線「桜新町」駅から「サザエさん通り」をまっすぐ。
「長谷川町子美術館・記念館」の手前に佇むフレンチレストランが「infusion(アンフュージョン)」。その名はミシュランガイドにも掲載された名店として知られています。

クリスマスが近づくなか、特別なランチを楽しむため、お店の扉を開けると、アットホームなやわらかな空気が満ちあふれ、ホリデーシーズンの華やいだ気分を優しく包み込んでくれました。
今回は3コース用意されたランチメニューからBコース(税込5,500円)をオーダー。
アミューズから前菜、本日のお魚料理、メイン、デザートまでが並び、前菜とメインは4種から、デザートは3種から選ぶことができます。

ゆったりと食事が楽しめる、落ち着いたムードの店内には個室も用意されている

ランチタイムの始まりはアミューズから。
小さなグラスで届けられる「カリフラワーとズワイガニのタルタル仕立て」はピューレ状になったカリフラワーと丁寧に身を取り出したズワイガニの共演。絶妙なバランスで組み合わされた素材が、それぞれの風味を尊重しながら調和を奏でます。

ピューレになったカリフラワーが斬新でカニとも好相性。グラスに入ったアミューズ
お皿になくなるとサーブされる自家製のパン。独特の苦味がたまらないオリーブオイルと好相性

こちらはコースとは別にオーダーした「モンサンミッシェル産ムール貝のマリニエール風」(税込1,200円)。
日本で食すムール貝よりはるかに小ぶりで、一口食すと旨みがギュッと詰まった濃厚さに感嘆!オリーブオイルとドライベルモットが甘みを引き出し、旨みが染み出たソースも心の奥底に波紋を描くような美味しさ。このムール貝は10〜12月の間だけ、フランスのモンサンミッシェルからチルドで空輸される希少な味わいです。またお店では、漁期の短い越前セイコ蟹も12月まで提供しています。

身が締まり、旨み成分の塊のようなムール貝。器とスプーンの演出もひときわ目を引く

この日、オーダーしたドリンクは「キール」。
ムール貝ともよく合い、キールの果実味がムール貝のふくよかな旨みを引き立て、まるで大地と海のコラボレーションのよう。なお、お店ではお酒類の他、ハーブコーディアルやブドウのジュースなど、ノンルコールドリンクも取り揃えています。

フルーティーで華やかなキールは甘めのお酒をお好む方におすすめ

続く前菜は、季節の恵みを描く色彩のパレットを思わせる「全国から届いた10種類の有機、減農薬野菜と鮮魚のマリネ バジルの香り 黒オリーブソース」。お店のオープン以来、お客さんからの人気が高い一品です。
日によって使う魚は変わるそうで、この日は豊後水道から届いたコチが用いられていました。リーフやエディブルフラワー、さまざまな食感の野菜たちが魚に寄り添い、口に広がる爽やかな味わい。シェフがブレンドしたスパイスがマリネの周りをグルリとかけられ、見た目も楽しい前菜です。

その日届いた魚を用いるマリネ。見た目の美しさがテンションを上げてくれる

また、この記事のトップに用いた写真も前菜の1つ。
「熟成メバチマグロのタルタル仕立て アボカドのピューレと安曇野野菜のギリシャ風マリネ あご出汁のジュレとディル風味のレモンサワークリーム」です。フルフルとしたジュレの下にはほどよく刻まれた旨しメバチマグロが隠され、まるでオーケストレーションのようにそれぞれの素材が調和を奏でる一皿。

ところで、お店のオーナーシェフである菊池貴通さんは茨城の「港育ち」で、とくに魚と野菜には信念を持っている方。お店のアミューズやモンサンミッシェル産のムール貝、魚と野菜のどちらも主役にした美しい前菜を思うと、その探究心がうかがえます。

本日の魚料理に登場したのは「スズキのポワレ」。
こちらのスズキは皮目がパリッと焼かれ、サフランを使ったソースが沁みる身の部分はレアに近い焼き方で調理。魚の旨みを知り尽くしたシェフだからこそ生まれる、細部に宿るこだわりを感じます。

サフランを使ったやさしい味わいのソースとスズキをしっかり絡ませていただきたい

メインディッシュは肉料理を注文。
「上州、赤城牛の内もも肉のロースト フランボワーズビネガーとトリュフの赤ワインソース」は、まず脂質が少なくきめ細やかな肉質の内もも肉の旨みに感動。酸味と甘味がほどよく溶け合うソースに合わせると、また新しい景色が心に広がるはずです。

バラ色のロースト肉はレアに近い焼き方で。見た目以上にボリュームを感じる

もう1つ、メインを紹介しましょう。
こちらは「やまゆりポーク、ロース肉の低温ロースト シトロンジンジャー風味 粒マスタードソース」。表面の焦げ目が香ばしい豚肉はしっとりとしてジューシーで、爽やかな風味のソースとの相性の良さを感じさせます。付け合わせのクレソンやオクラ、大根、サツマイモ、ズッキーニも美味しくいただきました。

神奈川県産のやまゆりポークは驚くほど、脂身もジューシーで美味!

ちなみにお店では、お肉の量をあらかじめ決めることはなく、お客さん一人ひとりを見つめ、その雰囲気を感じ取りながら、最適なボリュームを提供するそうです。

さて、お店の菊池シェフは、都内の名だたる名店やフレンチの本場フランスに渡って腕を磨き、技と感性を研ぎ澄ませてきた方。かつて二子玉川のレストランでシェフを務めた経験があることから、二子玉川周辺の街に思い入れがあり、2009年にフレンチのお店がほとんどなかった桜新町に自らのお店「infusion」をかまえました。

「やはり、大切なのは人なんですよ」と菊池シェフは静かに語ります。
その言葉が表しているように、厨房で働くスタッフもホールでお客様さまを迎えるスタッフもハートウォーミングで、お店の魅力を引き上げる存在。菊池シェフ率いるinfusionでは料理の一口一口や気持ちの良いサービスにその想いが映し出されているようです。

最後に目の前に現れるデザートは、ランチの余韻をそっと心に刻んでくれます。
「シャインマスカットのタルトレット ジンジャーヨーグルトのソルベ添え」は見た目にときめき、口に運ぶと時を止めたくなるような甘やかさ。ランチの締めくくりにふさわしい、口角が上がりっぱなしの味わいでした。

アーモンド生地のタルトにシャインマスカット+ソルベ。まるで宝石のような美しさ

クリスマスが近づくと、街の空気にはほのかな甘さと特別な高揚感が漂います。
この季節に楽しむランチは、一皿ごとに心を込めた料理が並ぶテーブルを大切な人たちの笑顔や温かい会話で囲みたいものです。
それは記憶に刻まれる幸せな時間。
今年のクリスマスランチは誰と何を食べますか?

information

infusion
世田谷区桜新町1-29-1 N&K’S Park ビル1階
03-5758-5405
http://www.infusion.jp/index.html