JR五反田駅東口を出ると、目に飛び込んでくるのは色とりどりの看板や昼夜問わず流れる人の波。飲食店の入ったビルや商業施設が連なる光景はどこかカオスな熱気が伝わってきます。
そんな喧騒が絶えない五反田駅前からソニー通り(大崎広小路交差点から新八ツ山橋交差点までの道路)を品川方面にしばらく歩き、左折すると空気がふっと変わります。
人の流れはまばらになり、耳に届くのはたまに通り過ぎる車の走行音と自分の靴音だけ。
このあたりは「城南五山」のひとつ、島津山にあたります。
池田山、花房山、御殿山、八ツ山とともに、かつて大名や華族が屋敷を構えた丘の総称で、今では都心にありながら品のある静けさを伝える邸宅街として知られています。
近くには清泉女子大学のキャンパスがあり、ゆるやかな坂道が街全体に洗練された余白をもたらしています。五反田駅から数分歩いただけで、これほど空気が変わるのかと驚くばかり。
その穏やかな起伏を描く坂道の途中に佇むのが、ハンバーガーの名店として知られる「7025 Franklin Avenue(フランクリンアベニュー)」。

外観は一見すると瀟洒な一軒家。壁に描かれたお店のポップなキャラクターからは想像がつきませんが、扉を開けて奥へ進むと、大きなガラス窓の向こうにグリーンが沁み入るような中庭が現れます。島津山という優雅な邸宅が立ち並ぶ場所に相応しいお庭に、しばらく見惚れてしまいました。
近年、とくにコロナ禍以降、日本でも“グルメバーガー”と呼ばれるこだわりのハンバーガーが人気を集め、専門店も増えましたが、このお店がオープンしたのは1990年。当時はハンバーガーといえばファストフードのイメージが強かった時代です。このお店はいわば、日本のグルメバーガー文化の先駆けといえる存在。
東京・城南エリアには「ベーカーバウンス」という有名店が三軒茶屋にありますが、こちらは2002年のオープン。そう考えると、このお店が長年築いてきた歴史の重みを改めて感じます。


この日いただいたのは「AVOCADO BURGER(アボカドバーガー)と「MUSHROOM BURGER w/SWISS(マッシュルームチーズバーガー)」。
ナイフとフォークが添えられたお皿で提供されるスタイルも、老舗らしい矜持を感じさせます。

パテはオーストラリア産の牛肉が使用され、しっかりとした食感がありながらもジューシー。噛むほどに肉の旨みが広がります。ちなみに、パテのサイズは「Medium (112g / 1/4 pound)」「Large (149g / 1/3 pound)」「Ex. (225g / Half pound)」の3種から選ぶことができ、この日はLargeをチョイス。 多くのお客さんがこのサイズを選ばれているようでした。

「FRENCH FRIES (フレンチフライ)」はアメリカから輸入した味付きポテトを店内で揚げたもの。カリッとした軽やかな食感が、ハンバーガーとの相性をいっそう引き立てていました。

とりわけ、心に刻まれたメニューが「ONION GRATIN(オニオングラタンスープ)」です。
注文すると「15分ほどお時間をいただきます」と告げられますが、その言葉にも納得でした。たっぷりの玉ねぎの甘みと、スイス産チーズの濃厚なコク。スプーンを入れると、とろりと伸びるチーズの弾力に思わず目を見張ります。体だけでなく、心まで温まるような一皿。

さて、ランチタイムの店内をたとえるなら、そこは小さな劇場のよう。
近所で働く仲間同士らしいグループが笑い声をあげ、シャンパンのグラスを傾ける女性たちのテーブルの隣には向かい合って静かに語り合うカップルが。そして1人でフォークとナイフでハンバーガーと向き合い、ランチタイムそのものを楽しんでいる人も。テーブル席もカウンターも、いつのまにか満席です。
お店の中央部に位置するオープンキッチンからは肉を焼く音がリズミカルに響き、食欲中枢のツボを刺激する匂いが押し寄せてきます。作り立てのハンバーガーをのせた白いお皿が運ばれるたびにテーブルが明るくなり、誰かが小さな歓声をあげ、笑顔満開!

話し声や食器とカトラリーがぶつかる音が重なり合って、店内にはなんとも心地よいざわめきが満ちていました。賑やかなのに落ち着ける…その高揚感は、いわゆるリーズナブルな居酒屋の賑わいとは趣が異なり、ここに広がるのは丁寧に仕立てられた一皿と向き合うことで生まれる喜び。
こんな雰囲気のあるお店はどこにでもあるものではありません。チェーン店では決して味わえない、その場所にしかない空気や品格というものが、ここには存在します。
お店が長年この街に根づき、多くの人を惹きつけてきた理由は、島津山という、都心にありながら閑静な邸宅街の片隅で、ただひたすら真摯にハンバーガーと向き合ってきた時間にあるのかもしれません。

美味しさを追求し、丁寧に作られたハンバーガーと過ごすあたたかな時間。
坂道の途中にある一軒家は、今日も静かに人々を迎え入れ、デリバリーのバイクを走らせています。
ちなみに支払いは現金のみ。キャッシュレス決済を求められることが増えた今、少し意外なスタイルかもしれません。こんなところにも、お店が歩んできた時間の流れを感じますね。
information

7025 Franklin Avenue
東京都品川区東五反田3-15-18
03-3441-5028
https://www.instagram.com/7025_franklin_ave/
