東京・城南エリアを歩くと、思いがけず“世界の断片”に出会うことがあります。
恵比寿・ビール坂の一角にあるミャンマー・雲南料理店「95yooya(95ヨーヤ)」もそのひとつ。

まず「雲南とミャンマーが一緒に?」と興味を引かれる、このお店。
日本でその食文化を同時に味わえる場所は、そう多くはないはずです。地図の上で中国・雲南省とミャンマー北部は隣接していることから、人の往来も、食文化の交流も、昔から行われていたことだろうと推察します。
モダンな店内に入ると、空気がふっとやわらぎます。
洗練された空間のなかにミャンマーや雲南の民芸品がさりげなく置かれ、どことなく土地の記憶を宿したぬくもりが漂っています。「異国情緒が漂う」という簡単な言葉ではなく、見知らぬ国の誰かの暮らしの延長にあるような、生活のにおいが感じられる空間。飾りつけたものではなく“そこに在る“感じが心地よいのです。


ランチタイムに選んだのは「雲南魯肉飯」(1,590円)と「ラペツ」(1,290円)。
魯肉飯と聞くと五香粉や八角が独特の深みと味わいを作り出す台湾の豚バラ煮込み丼の印象が強いですが、お店の魯肉飯は風味豊かな牛肉が使われています。

運ばれてきたお皿から立ちのぼるのはエキゾチックな香り。
さぞかしスパイスたっぷりで、食すと顔の毛穴からドッと汗が吹き出すかも⁉︎そう予想しつつ一口いただくと…期待は気持ちよく裏切られました。
塩気と甘み、そして旨みを引き出すスパイスが好バランス。脂身、赤身、皮など、さまざまな部位が合わさったお肉がごはんと寄り添い、おかわりを所望したくなるほど。
なお、お店で提供する白米はタイ産香り米を使用。ほのかな甘みと芳香がふわりと広がります。

一方のラペツもお初の料理。
ラペツに添えられている日本語は「ビルマ発酵茶葉飯サラダ」。スタッフの方によると「ミャンマー語で、お茶は『ラペ』と言い、『ラペソー』は発酵させた茶葉のことです。ピーナッツや豆、干しエビなどと混ぜてごはんのおかずにしたり、野菜と合わせてサラダで食べます」とのこと。

ラペツの見た目は炒飯のようですが、実はれっきとしたサラダ。
お米をベースに発酵させた茶葉、ひよこ豆やキャベツ、ナッツなどが混ざり合い、口に運ぶと、ほのかな酸味、旨み、香ばしさが次々とあらわれ、食感のリズムが楽しいのです。

これはどこかで出会ったことのある感覚…。
と、思い出したのは本マガジンでも紹介したタイ南部の郷土料理であるお米のサラダ「カオヤム」。その一皿に通じるものがありました。
カオヤムはハーブや野菜、乾燥エビなどを混ぜ込み、酸味のあるドレッシングで和えていただきます。
混ぜ合わせることで完成するという点では共通していますが、ラペツは発酵茶葉が使われている分、より複雑な旨みが感じられます。
お茶を「飲むもの」ではなく「食べるもの」として受け止める文化の奥深さ。これは山岳地帯で育まれた発酵の知恵や保存食の工夫なのでしょうか。
キッチンではミャンマー人の女性スタッフが手際よく料理を仕上げています。
そして、お店のオーナーはミャンマーと雲南にルーツをもつ中国人女性。お店に流れる風土に根ざした文化の気配はお店を運営する人々の背景から立ち上がっているのかもしれません。


ところで、東京でミャンマー料理店といえば、高田馬場や大塚に多く集まっています。どちらも本格的な味を楽しめるエリアですが、時として“本場感”の強さゆえに(ディープというべきか?)少しだけ敷居の高さを感じることもあります。
その点、感度の高い飲食店が集まる恵比寿にこのお店があることに意味があるように思えます。郷土の味を届ける専門料理店というよりは、オーナー自身の食のルーツをたどる文化として紹介したいという思いが、さりげなく伝わってくるのです。

「95yooya」という店名も「95」はミャンマーの国番号、そして「yooya」はミャンマー語で伝統という意味。店名に国への敬意とアイデンティティが込められているのを感じます。
料理の他にもう少し、ミャンマーの食文化を楽しみたいという方はぜひ、自家製デザートとミャンマーのお茶はいかがでしょう。
この日いただいたデザートは、日替わりの「ココナツゼリー」。
ミャンマーではココナツミルクと寒天を使ったゼリーが親しまれ、パンダンリーフで色付けした緑と白の二層仕立てなど、見た目にも美しいものが多くあります。
お店の自家製ココナツゼリーは、ややしっかりめの食感。ツルンとした口あたりが心地よく、やさしい甘さが広がります。

そして、ぜひ合わせたいのがミャンマーの茶葉を使ったミルクティー。
スパイスの効いたインドのチャイとコンデンスミルクがたっぷり入った濃厚なタイのミルクティーのちょうど中間のような甘みと風味が楽しめます。

未知の国の味に出会える体験は、日常に小さな窓を開けて風を運んでくれるよう。
写真でしか知らない、少数民族が暮らす雲南の山あい、ミャンマーのパゴダや市場のざわめき…。つくづく、その国の料理を食べることはその土地に一歩踏み入れることだと感じます。
さて、次はどんな一皿がまだ見ぬ土地へ連れていってくれるのでしょうか。
そんな楽しみが、またひとつ増えました。
INFORMATION

95yooya
東京都渋谷区恵比寿4-22-7 恵比寿イーストスクエア1F
03-6277-0718
https://www.instagram.com/95yooya/
