道玄坂は緩やかな勾配でありながら、渋谷駅から道玄坂上まで、その傾斜と距離を実感させる坂道。
この坂を上りきり、交通量の多い国道246号線と交わるあたりに出ると、ダイナミックな首都高速道路が頭上を走り、そこが都会の要衝であることを改めて感じるはず。そんな街の鼓動と共存している立地にあるのが「FabCafe Tokyo(ファブカフェ トーキョー)」です。

国道246号、そして頭上を走る首都高速。渋谷の喧騒とスピード感が交じり合う道玄坂上

店内に足を踏み入れると、多くの人々がひしめき合い、心地よい熱気がみなぎっています。デザイナーやエンジニア、学生、フリーランスと思しき人たちが肩を並べ、画面と向き合い、キーボードを叩き、アイデアを形にする時間。ここが単なるカフェやワークスペースではなく「ものづくりの場」を前提に設計された場所であることが、醸し出す空気感から自然と伝わってきます。

お店の大きな特徴は、カフェとファブリケーションスペースが地続きになっている点です。店内にはレーザーカッターをはじめとする、ものづくりのためのデジタル機器が設置され、専門的な知識がなくても、スタッフのサポートを受けながら制作体験できます。

鮮烈な光を放ちながら、緻密なデザインを形にしていくレーザーカッター
コーヒー豆のディスプレイも、お店の方がマシンを使って製作したそう。ものづくりへのワクワク感が募る

今回はそのレーザーカッター(Trotec Laser Cutter 360)を使って、キーリング作りを体験しました(※利用方法についてはこちらhttps://fabcafe.com/jp/tokyo/fab/key-charm/ を参照してください)。
そのプロセスを紹介しましょう。

1. 素材と書体のセレクト

まずは、キーリングの土台となる素材選びからスタート。
今回は文字が映えるよう、薄い色目の木をセレクトしました。 続いて刻む文字を決めますが、フォントの種類ひとつで仕上がりの印象がガラリと変わるのが面白いところ。
「Jonan Magazine」は木の素材感に合わせて、丸みのあるやわらかな書体を選びました。
スタッフの方がPCで完成予想図を見せてくれるので、仕上がりを具体的にイメージできます。

素材となる木は4~5種類。有料で彫った文字や図柄に色を付けることもできる

2.レーザーカッティング

素材にマスキングテープを巻くと、いよいよメインイベントのレーザーカットです。
透明なカバー越しに、レーザーが正確な軌跡を描き、木の表面を焼きながら文字を刻んでいく様子を見ることができます。
PCのデータが現実のカタチあるものへと変わる瞬間。レーザーカットの作業時間は約2分で、あっという間に完了しますが、カッティングされる様子が面白くて、目が離せません。

マシンが目で追えないほど素早く正確に動き、文字を焼き付けていく

3.金具の取り付け

出来上がった(焼き上がった)素材からは、少し焦げた木の香りが漂います。
焚き火した後のスモーキーな…あの感じです。
マスキングテープを丁寧にはがし、ベルトにカシメ(金具)を取り付ければ、世界にひとつだけのキーリングが完成!

マスキングテープが細部に残らないよう、慎重に剥がそう
打ち棒を当てて金具を固定する。ハンマーはあまり重くないのでパワーに自信のない方でも安心
完成したキーリング。本体は少し大きめなので、鞄やポケットの中から探し出しやすくて便利

工程自体は決して複雑ではありません。

「レーザーカッターは、木材やアクリル、レザーなど、意外と幅広い素材に対応できるんですよ。慣れた方は自作のデータを持ち込んで制作に臨まれます。今日はこれを作ると決めて来られることが多いですね」とスタッフの方。

お店ではレーザーカッターの他にも、多彩な機材がそろっています。
「UVプリンター」は、木やアクリル、革、プラスチックなどに直接プリントでき、素材の質感を生かした表現が可能。ロゴ入りのグッズ作りにも活躍しそうです。さらにはオリジナルのテープやリボンを作れる「テープクリエイター」も備わり、ものづくりの楽しさをぐっと広げてくれます。

ワーキングカウンターの横には「UVプリンター」と「テープクリエイター」が並ぶ

シンプルでグレイッシュな内装が施された店内を見渡すと、作業に集中する人、打ち合わせをするグループ、レーザーカッターの前で完成を待つ人など、過ごし方は実にさまざま。

そして空間全体に流れているのは、「何かに向き合っている」空気。
カフェで過ごす時間そのものが思考や制作の一部のようで、そこにはエネルギッシュでありながら肩肘張らない、いかにも渋谷らしいクリエイティブなムードが漂っています。

ピンク色が鮮やかな「イカ燻しば漬け」(奥)と「ポルチーニクリーム」(手前)の「うまみおにぎり」(700円)
「冷やしカヌレ」(350円)はシュークリームのような濃厚な風味。頭を使った作業のご褒美にいかが?

また、このカフェは新しい刺激が生まれるイベント会場としての役割も担っています。
店内では時折、ワークショップやトークショー、展示といったイベントが開催され、特定のテーマのもとに人々が集います。

カフェ奥の大スクリーンには開催中や開催予定のイベントのイメージが次々と映し出される。好みのイベントを見つけよう

ひとりで作業に没頭する時間、カフェの枠を超えたコミュニティ。そんな変化に富んだ人の流れがここに新鮮なエネルギーを吹き込んでいるようです。

さて、レーザーカッターで作ったキーリングですが、完成から数日間はかすかにスモーキーな香りをまとい、自分の手を介して生まれたという愛着を感じさせてくれました。

専門的な知識も経験もない、いわば“入り口”に立っただけの体験。
それでも、制作のプロセスにほんの一歩関わることで、モノの見え方が変わり、物語が始まるよう…このお店は、そんな新たな風景を見せてくれる場所なのかもしれません。

INFORMATION

FabCafe Tokyo
東京都渋谷区道玄坂 1-22-7 道玄坂ピア1F
03-6416-9190
https://fabcafe.com/jp/tokyo/