目黒区役所のほど近く、駒沢通り沿いにひっそりと佇む小さなヴィーガンカフェがあります。
その名は「Ballon(バロン)」。
中目黒駅の喧騒から少し離れたそのお店は異国の市場に足を踏み入れた時に感じる、あのワクワクした空気に満ちています。


10人も入ればいっぱいになるほどのコンパクトな空間。 白いコンクリートブロックの壁際には青緑色のソファ、フロアの一部には幾何学模様のクラシカルなタイル。ふんわりと漂うスパイスの香りと、遊び心あるインテリアの色彩が、訪れる人を未知の世界へと誘います。


植物性100%の食にこだわるお店で出会えるのは、中東発祥の料理「ファラフェル」。
ファラフェルとは、ひよこ豆やそら豆を潰してクミンやコリアンダーなどのスパイス、フレッシュなハーブを練りこんで油で揚げた、コロッケのような料理です。
外はカリッと香ばしく、中はふんわりと軽く、噛みしめるたびに豆とスパイスが混ざり合った、ふくよかでやさしい風味が広がります。
見た目はかなり素朴ですが、一度味わえば、その奥深さに魅了されるはずです。
自家製ファラフェルはその日の気温や湿度に合わせて生地を調整し、ひとつひとつ丁寧に揚げられます。

ピタパンにぎゅっと詰められたファラフェルサンド、彩り豊かな野菜とともにいただくファラフェルボウルには、にんじんのマリネ、シメジのグリル、紫キャベツ、トマト、揚げ茄子、ポテトサラダなど、たっぷりの野菜が盛り込まれています。


それらをまとめるのは、北アフリカ発祥の唐辛子ベースの調味料である「アリッサ」と香ばしい白胡麻ペーストの「タヒニ」。それぞれが主張しすぎることなく、絶妙なバランスで全体を引き立てる、まさに名脇役のような存在です。

厨房で立ち働く店主に「野菜がたっぷりで、しかも本当に美味しいですね」と伝えると、少し照れたように笑って「(仕入れ先の)農家さんがこだわってくれているんですよ」。 その言葉の奥に、食材への敬意と日々の積み重ねがにじんでいます。

このお店は「パリで出会ったファラフェルの美味しさを東京に届けたい」という創業者の熱い想いから、2017年に誕生。
創業者と一緒にお客さまを迎えてきた現在の店主は、その想いを経営とともに大切に継承。看板商品のファラフェルを通じてお客さまをもてなしています。

お店の軸となっている「ヴィーガン」は1990年代のイギリスで「ヴィーガニズム」という哲学から生まれました。
日本ではしばしば「菜食主義」と訳されますが、衣料品や日用品においても動物性素材を避けるといった、動物の搾取に繋がるものを排除する考え方も含まれています。
一方で「フレキシタリアン」(柔軟な菜食主義)という選択をする人もいます。
たとえば、普段はなるべく植物性の食事を心がけつつも、旅先ではその土地の美味しい肉や魚も楽しむという柔軟な姿勢を持つ人たちです。
実際、訪日観光客の中には「日本にいる間だけはちょっとだけ」と
動物性の食材を一切使わないヴィーガンという食の選択は、単なる食事制限ではなく、生き方そのものの表現といえるかもしれません。
動物や環境への配慮、あるいは自分自身との対話…。理由は人それぞれですが、共通しているのは「自然や環境、自分にやさしく在りたい」という意志です。

さて、お店のもうひとつの名物が植物性100%のソフトクリーム。
豆乳と甘酒、アガペーシロップで作られたやさしい風味が口の中でほどけて、後味はすっきりと軽やか。
キャラメルナッツやパッションフルーツ、グルテンフリーのグラノーラなど、トッピングも可能で、自分好みの味を楽しむこともできます。

お店で体験できるのは、植物性の素材が互いに響き合うことで生まれる豊かな味わい。
ヴィーガンの食事は物足りない…というこれまでの思い込みは、たちまち覆されました。
Ballonの小さな扉は胃袋を満たすだけでなく、ヴィーガンへの新たな発見と感動の入り口でもありました。
INFORMATION

Ballon
東京都目黒区中目黒3-2-19ラミアール中目黒104
03-3712-0087
https://www.ballontokyo.com