渋谷区大山町にある「社食堂」は、建築家の谷尻誠さんと吉田愛さんが主宰する設計事務所「サポーズデザインオフィス」が経営する社食。一般に社食といえば、その会社の社員もしくは社員に同行する外部の人のみが利用可能というケースが多いような気がします。しかし、この社食堂は事務所の人だけでなく、誰でも利用可能。

そこで、JONAN MAGAZINEを運営する株式会社アイネストも住宅の企画設計を手がけ「設計」という同じ柱を持っていることもあり、冒険心(好奇心?)を携えてランチタイムに訪れました。

場所はイスラム寺院「東京ジャーミィ」が近くにそびえる、井の頭通り沿い。築30年以上を経た重厚なマンションの地階です。「おかん料理」を提供する社食堂の今日のメニューを確認し、階段を降りるとそこに広がっていたのは外観からはとても想像できないほど解放感のある空間。目を引くのは真ん中に配された大きなアイランド型キッチンです。

天井に建築部材のH鋼(断面がHの形鋼)が格子状に渡された、クリエイターの硬派な秘密基地を思わせるフロア。その主役といえる、黒皮ままの天板を使ったキッチンをセンターに大きく2つに分けると、入り口側が食堂や物販、写真、書籍のゾーン、その反対側を占めるのが設計事務所のゾーンとなっています。

奥に見えるのがオフィススペース

設計事務所にある食堂ではありますが「ここから先、部外者は立入禁止」のようなピリッとした空気は一切なく、お昼時になると所員の方々がランチ客の横で普通に昼食をとっているし、同僚や仕事関係者と図面を広げて打ち合わせなども、フツーに行われています。社食堂のコンセプトでもある「社会に開かれている」という空気にあふれています。

社食堂は設計事務所で働くスタッフの健康を気遣い、栄養面を考えた料理を提供することも目的の1つ。ランチはメインが肉か魚から選べる日替わり定食2種のほか、カレーや海鮮丼などが用意されています。この日の日替わり定食は肉料理がゴーヤチャンプル、魚料理が鰆のカレー風味。定食には副菜が3種にご飯と汁ものが付きます。どれも愛情を注いで作られているのを感じさせる味わい。

ゴーヤチャンプル定食
キーマカレー

食事を作るのはサポーズデザインオフィスの飲食担当の方たち。東京のほか広島にも事務所がありますが、この東京オフィスで働く設計スタッフだけでもは20人以上いらっしゃるそう。

当社常務取締役で企画開発責任者の落合は「谷尻誠さんの仕事をよく拝見しますが、空間とモノとの時間軸の扱い方がとてもうまい方だと思います。社食堂でも経年変化による古いコンクリートの質感を生かした床や自在に位置を動かせるライトが取り付けられた天井に格子状に組んだH鋼など、新しいものと古いものとの組み合わせ方が抜群にセンスがありますよね」と話します。

壁を利用した収納棚には天井に使われているH鋼や鉄のプロダクトが展示販売され、背の高い書棚にはブックディレクターが選んだ建築関係の本や雑誌がズラリと並んでいます。どれも席で読めるので建築家を目指す方やデザインや建築に興味のある人にとっては勉強の場になるのでは。また、この日は併設するプロダクト販売コーナーにサンダルを求めに来た人の姿も。

「社食堂はシェアリングの文化を取り入れていらっしゃるのでしょうね。谷尻さんは建築とその建築に必要な文化の解釈が見事で、ものづくりの考え方が突き抜けている方。ちなみに谷尻さんは映画『未来のミライ』(細田守監督)の主人公の家を制作(設計)されていますよ。ぜひ見てみてください」(落合)

映画『未来のミライ』の主人公くんちゃんのお父さんは建築家という設定で、自宅にあるお父さんの仕事場(書棚にはザハ・ハディドの作品集など、ディテールが細かい!)や階段脇の遊び道具の収納なども谷尻さんのアイデアだとか。

通路に貼ってあるポスター

さて、「同じ釜の飯を食う」という言葉がありますが、社食堂で昼食をとる設計事務所のスタッフの方々のようにその場に居合わせた人たちが1つのテーブルに集い、食事をともにすると自然と色々なことを話しはじめます。時に、わかりあい、喜びあい、時には励まし、慰めあうこともあるでしょう。たわいのない話からアイデアが飛び出し、カタチにしよう!と心が1つになることもあるかもしれません。

食べるもの、食べる時間を通じて、人と分かち合う心の土がやわらかく耕されていく…。もしかしたら社食(同じ釜の飯を食う空間)の役割は仲間との語らいの時間なのかもしれません。そんなヒントをくれた社食堂でした。

information

社食堂

渋谷区大山町18-23-B1F

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